・・・もとは大きな盥を浮かべて船の代わりにしたものであるが、いろいろの観測に必要だというので、水産講習所へ頼んで造ってもらったものである。池につないでおくと、たぶん職人か土方だろうが、よくいたずらをして困るので、ああして引き上げておくのである。ナ・・・ 寺田寅彦 「池」
・・・ 敢えて農作関係ばかりとは限らず、系統的な海洋観測が我邦のような海国にとっては軍事上からも水産事業のためにも非常に必要であるということは、実に分りきったことであるが、この分り切ったことがどういう訳か昔の日本の政府の大官には永い間どうして・・・ 寺田寅彦 「新春偶語」
・・・ 水産生物の種類と数量の豊富なことはおそらく世界の他のいかなる部分にもたいしてひけを取らないであろうと思われる。これは一つには日本の海岸線が長くて、しかも広い緯度の範囲にわたっているためもあるが、さらにまたいろいろな方向からいろいろな温・・・ 寺田寅彦 「日本人の自然観」
・・・箱根は二十年も昔水産関係の用向きで小田原へ行ったついでに半日の暇を盗んで小涌谷まで行ったのと、去年の春長尾峠まで足を使わない遠足会の仲間入りをした外にはほとんど馴染のない土地である。それで今度は未見の箱根町まで行って湖畔で昼飯でも食って来よ・・・ 寺田寅彦 「箱根熱海バス紀行」
・・・ 我邦の産業中で農業に劣らず重要な水産漁業の方面でも物理学的研究の必要はだんだんに増して来るようである。これには先ず海洋それ自身の研究の必要な事は勿論である。海洋に関する物理的事項の重なるものについては近頃出版した拙著『海の物理学』にそ・・・ 寺田寅彦 「物理学の応用について」
・・・しかしあとでよく考えてみると、物理でもやはりプランクトンと同様なものを、水産学におけると同様に取り扱っていることは少しも珍しくない。つい近くまでわれわれは鉄の弾性とか磁性とかいうことを平気で言って、その「鉄」を作る微晶や固溶体のプランクトン・・・ 寺田寅彦 「量的と質的と統計的と」
出典:青空文庫