・・・女星の額の玉は紅の光を射、男星のは水色の光を放てり。天津乙女は恋の香に酔いて力なく男星の肩に依れり。かくて二人は一山の落ち葉燃え尽くるまで、つきぬ心を語りて黎明近くなりて西の空遠く帰りぬ。その次の夜もまた詩人は積みし落ち葉の一つを燃かしむれ・・・ 国木田独歩 「星」
・・・日は青々とした空に低く漂ッて、射す影も蒼ざめて冷やかになり、照るとはなくただジミな水色のぼかしを見るように四方に充ちわたった。日没にはまだ半時間もあろうに、モウゆうやけがほの赤く天末を染めだした。黄いろくからびた刈株をわたッて烈しく吹きつけ・・・ 国木田独歩 「武蔵野」
・・・ゆったりと坐って烟草を二三服ふかしているうちに、黒塗の膳は主人の前に据えられた。水色の天具帖で張られた籠洋燈は坐敷の中に置かれている。ほどよい位置に吊された岐阜提灯は涼しげな光りを放っている。 庭は一隅の梧桐の繁みから次第に暮れて来て、・・・ 幸田露伴 「太郎坊」
・・・私が自分の部屋を片づけ、狭い四畳半のまん中に小さな机を持ち出し、平素めったに取り出したことのないフランスみやげの茶卓掛けなぞをその上にかけ、その水色の織り模様だけでも部屋の内を楽しくして珍客をもてなそうとしたころは、末子も学校のほうから帰っ・・・ 島崎藤村 「分配」
・・・此をお読みになる時は、熱い印度の、色の黒い瘠せぎすな人達が、男は白いものを着、女は桃色や水色の薄ものを着て、茂った樹かげの村に暮している様子を想像して下さい。 女の子が、スバシニと云う名を与えられた時、誰が、彼女の唖なことを思い・・・ 著:タゴールラビンドラナート 訳:宮本百合子 「唖娘スバー」
・・・青い蝶や、黒い蝶や、白い蝶や、黄色い蝶や、むらさきの蝶や、水色の蝶や、数千数万の蝶蝶がすぐ額のうえをいっぱいにむれ飛んでいるというのであった。わざとそういうのであった。十里とおくは蝶の霞。百万の羽ばたきの音は、真昼のあぶの唸りに似ていた。こ・・・ 太宰治 「逆行」
・・・レンコオトも帽子もなく、天鵞絨のズボンに水色の毛糸のジャケツを着けたきりで、顔は雨に濡れて、月のように青く光った不思議な頬の色であった。夜光虫は私たちに一言の挨拶もせず、溶けて崩れるようにへたへたと部屋の隅に寝そべった。「かんにんして呉・・・ 太宰治 「ダス・ゲマイネ」
・・・手も届かぬ遠くの空を飛んで居る水色の蝶を捕虫網で、やっとおさえて、二つ三つ、それはむなしい言葉であるのがわかっていながら、とにかく、掴んだ。 夜の言葉。「ダンテ、――ボオドレエル、――私。その線がふとい鋼鉄の直線のように思われた。そ・・・ 太宰治 「めくら草紙」
・・・女は、幽かな水色の、タオルの寝巻を着て、藤の花模様の伊達巻をしめる。客人は、それを語ってから、こんどは、私の女の問いただした。問われるがままに、私も語った。「ちりめんは御免だ。不潔でもあるし、それに、だらしがなくていけない。僕たちは、ど・・・ 太宰治 「雌に就いて」
・・・朝戸をあけると赤、紺、水色、柿色さまざまの朝顔が咲き揃っているのはかなり美しい。夕方が来ると烏瓜の煙のような淡い花が繁みの中から覗いているのを蛾がせせりに来る。薔薇の葉などは隠れて見えないくらいであるが、垣根の頂上からは幾本となく勢いの好い・・・ 寺田寅彦 「小さな出来事」
出典:青空文庫