・・・「これは、ほれ、水葬した死骸についていたんじゃないか?」 O君はこう云う推測を下した。「だって死骸を水葬する時には帆布か何かに包むだけだろう?」「だからそれへこの札をつけてさ。――ほれ、ここに釘が打ってある。これはもとは十字・・・ 芥川竜之介 「蜃気楼」
・・・「で、水葬はいつかい」「一運に一度訊いて見よう」「酒が、わるかったんだね」「ウム、どうもはっきり分らねえ。悪い病気じゃないといいが……」 明日、水葬する、と云うことに決った。 安田は、水夫たちの手に依って、彼のベッド・・・ 葉山嘉樹 「労働者の居ない船」
・・・ 土葬も火葬もいかぬとして、それでは水葬はどうかというと、この水というやつは余り好きなやつで無い。第一余は泳ぎを知らぬのであるから水葬にせられた暁にはガブガブと水を飲みはしないかと先ずそれが心配でならぬ。水は飲まぬとした所で体が海草の中・・・ 正岡子規 「死後」
・・・平生の志の百分の一も仕遂げる事が出来ずに空しく壇の浦のほとりに水葬せられて平家蟹の餌食となるのだと思うと如何にも残念でたまらぬ。この夜から咯血の度は一層烈くなった。固より船中の事で血を吐き出す器もないから出るだけの血は尽く呑み込んでしまわね・・・ 正岡子規 「病」
出典:青空文庫