・・・「私は、水蜜がたべたいわ。」 兄さんや、姉さんたちは、果物の季節になると、いろいろおいしそうな、果物が、店頭に並ぶのを見てきて話をしました。「晩に、勇ちゃんが休んでから、買ってきておたべなさい。」と、お母さんは、おっしゃったので・・・ 小川未明 「お母さんはえらいな」
・・・梨に二十世紀、桃に白桃水蜜桃ができ、葡萄や覆盆子に見事な改良種の現れたのは、いずれも大正以後であろう。 大正の時代は今日よりして当時を回顧すれば、日本の生活の最豊富な時であった。一時の盛大はやがて風雲の気を醸し、遂に今日の衰亡を招ぐに終・・・ 永井荷風 「葛飾土産」
・・・水菓子にはいろいろある。水蜜桃や、林檎や、枇杷や、バナナを綺麗に籠に盛って、すぐ見舞物に持って行けるように二列に並べてある。庄太郎はこの籠を見ては綺麗だと云っている。商売をするなら水菓子屋に限ると云っている。そのくせ自分はパナマの帽子を被っ・・・ 夏目漱石 「夢十夜」
・・・ 八 その翌日から妻の顔は急に水々しい水蜜のような爽かさを加えて来た。妻は絶えず、窓いっぱいに傾斜している山腹の百合の花を眺めていた。彼は部屋の壁々に彼女の母の代りに新しい花を差し添えた。シクラメンと百合の花。ヘ・・・ 横光利一 「花園の思想」
出典:青空文庫