・・・西鶴が経済的な面で大阪の当時の世相を描き出した短篇「永代蔵」その他は芭蕉と全然違ったリアリティーをもっている。武士出身の芭蕉が芸術へ精進した気がまえ、支那伝来の文化をぬけてじかに日本の生活が訴えてくる新しい感性の世界を求めた芭蕉の追求の強さ・・・ 宮本百合子 「女性の歴史」
・・・今はっきり思い出せないが、私はそれを真似て、西鶴の永代蔵の何かを口語体に書き直し、表紙をつけ、綴じて大切に眺めたりした覚がある。 小学校六年の夏休みのことであった。母が嫁入りの時持って来てふだんは使われない紫檀の小机がある。それを親たち・・・ 宮本百合子 「行方不明の処女作」
・・・そこで藪山は永代御預けということになった。 畑十太夫は追放せられた。竹内数馬の兄八兵衛は私に討手に加わりながら、弟の討死の場所に居合わせなかったので、閉門を仰せつけられた。また馬廻りの子で近習を勤めていた某は、阿部の屋敷に近く住まってい・・・ 森鴎外 「阿部一族」
出典:青空文庫