・・・たる青年の心は、彼の永眠を待つまでもなく、早くすでに彼を離れ始めたのである。 この失敗は何を我々に語っているか。いっさいの「既成」をそのままにしておいて、その中に自力をもって我々が我々の天地を新に建設するということはまったく不可能だとい・・・ 石川啄木 「時代閉塞の現状」
・・・六十三という条、実はマダ還暦で、永眠する数日前までも頭脳は明晰で、息の通う間は一行でも余計に書残したいというほど元気旺勃としていた精力家の易簀は希望に輝く青年の死を哀むと同様な限りない恨事である。・・・ 内田魯庵 「鴎外博士の追憶」
・・・朝日新聞記者として永眠して死後なお朝日新聞社の好意に浴しているが、「新聞記者はイヤだ、」といった事は決して一度や二度でなかった。ただ独り職業ばかりではない。その家庭に対してすら不満が少くなかった。更にまた一歩を進めていうと、二葉亭は生活の総・・・ 内田魯庵 「二葉亭四迷」
・・・朝早々から風邪を引き、軽い肺気腫の兆候があるというので大事を取って休養していたが、一度快くなって、四月五日の工学大会に顔を出したが、その翌日の六日の早朝から急性肺炎の症状を発して療養効なく九日の夕方に永眠した。生前の勲功によって歿後勲一等に・・・ 寺田寅彦 「工学博士末広恭二君」
出典:青空文庫