・・・アノ『基督教青年』を私が汚穢い用に用いるのは何であるかというに、実につまらぬ雑誌であるからです。なにゆえにつまらないかというに、アノ雑誌のなかに名論卓説がないからつまらないというのではありません。アノ雑誌のつまらないわけは、青年が青年らしく・・・ 内村鑑三 「後世への最大遺物」
・・・それでも汚穢屋が来ると、「こっちの者は自分のしたチョウズまで銭を出して汲んで貰うんじゃ。……勿体ないこっちゃ。」と繰り返した。「肥タゴが有れゃうらが汲んでやるんじゃがな。」 汚穢屋の肥桶を見ても彼は田舎で畑へ肥桶をもって行っていたこ・・・ 黒島伝治 「老夫婦」
・・・彼らは、たいてい栄養の不足や、過度の労働や、汚穢なる住居や、有毒なる空気や、激甚なる寒暑や、さては精神過多等の不自然な原因から誘致した病気のために、その天寿の半ばにも達せずして、紛々として死に失せるのである。ひとり病気のみでない。彼らは、餓・・・ 幸徳秋水 「死刑の前」
・・・堪ゆる能わざる克己・禁欲・苦行・努力の生活を為す人々でも、病いなくして死ぬのは極めて尠いのである、況んや多数の権力なき人、富なき人、弱き人、愚かなる人をやである、彼等は大抵栄養の不足や、過度の労働や、汚穢なる住居や、有毒なる空気や、激甚なる・・・ 幸徳秋水 「死生」
・・・我が身、金玉なるがゆえに、いやしくも瑕瑾を生ずべからず、汚穢に近接すべからず。この金玉の身をもって、この醜行は犯すべからず。この卑屈には沈むべからず。花柳の美、愛すべし、糟糠の老大、厭うに堪えたりといえども、糟糠の妻を堂より下すは、我が金玉・・・ 福沢諭吉 「徳育如何」
・・・けだし潔清無垢の極はかえって無量の寛大となり、浮世の百汚穢を容れて妨げなきものならんのみ。これを、かの世間の醜行男子が、社会の陰処に独り醜を恣にするにあらざれば同類一場の交際を開き、豪遊と名づけ愉快と称し、沈湎冒色勝手次第に飛揚して得々たる・・・ 福沢諭吉 「日本男子論」
加賀耿二氏の「希望館」という小説が三月号の『中央公論』に載っている。 僧侶によって経営される思想犯保護施設である希望館の内部生活の描写とその屈辱と汚穢に堪えきれなかった仙三という主人公が、大阪太陽新聞主催の見世物めいた・・・ 宮本百合子 「ヒューマニズムへの道」
・・・しかも、同じ貧窮と汚穢の中に朝から晩までころがされながら、尚民衆は「結構さん」の中に「旦那」「他人」を嗅ぎわけて、本能的な仲間はずれに扱ったということ。それらが、幼いゴーリキイの知性の目覚まされてゆく生活の過程として、私共の心を打つのである・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイの伝記」
・・・しかも、同じ貧窮と汚穢の中に朝から晩までころがされながら、尚民衆は「結構さん」の中に「旦那」「他人」を嗅ぎわけて、本能的に仲間はずれに扱ったということ。それらが、幼いゴーリキイの知性の目覚まされてゆく生活の過程として、私共の心を打つのである・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイの発展の特質」
・・・ 余り空が明るく、太陽の光りが美しいので、幾十日か人気なく捨てられて居た家は、まるで、全体が汚穢そのもののようにさえ見える。―― が、我々は――互に内心ではそのひどさを驚いて居る証挙に口もきかず――そろそろ彼方の格子の横木戸から、庭・・・ 宮本百合子 「又、家」
出典:青空文庫