・・・四高では私にも将来の専門を決定すべき時期が来た。そして多くの青年が迷う如く私もこの問題に迷うた。特に数学に入るか哲学に入るかは、私には決し難い問題であった。尊敬していた或先生からは、数学に入るように勧められた。哲学には論理的能力のみならず、・・・ 西田幾多郎 「或教授の退職の辞」
・・・昔、ペルシヤ戦争に於てギリシヤの勝利が今日までのヨーロッパ世界の文化発展の方向を決定したと云われる如く、今日の東亜戦争は後世の世界史に於て一つの方向を決定するものであろう。 今日の世界的道義はキリスト教的なる博愛主義でもなく、又支那・・・ 西田幾多郎 「世界新秩序の原理」
・・・それもまだ決定されているんじゃない。よしんば死刑になるかも分らない犯罪にしても、判決の下るまでは、天災を口実として死刑にすることは、はなはだ以て怪しからん。―― という風なことを怒鳴っていると、塀の向うから、そうだ、そうだ、と怒鳴りかえ・・・ 葉山嘉樹 「牢獄の半日」
・・・やや躊躇していたが、このあたりには人家も畑も何もない事であるからわざわざかような不便な処へ覆盆子を植えるわけもないという事に決定して終に思う存分食うた。喉は乾いて居るし、息は苦しいし、この際の旨さは口にいう事も出来ぬ。 明治廿六年の夏か・・・ 正岡子規 「くだもの」
・・・例えば技術詮衡部衛生部その他重要な生産計画部、文化部などがあって、どんな大工場の管理者でもこの工場委員会の決定に従って行動しなければならないようになっている。ブルジョア・地主の工場のように、社長、重役とか主任とか監督とか、威張って搾るばかり・・・ 宮本百合子 「明るい工場」
・・・いま政権をもっているということが将来を決定する条件ではない。 わたしたちの一票は、おととし以来、わたしたちの生活のなんのたそくになったろう。わたしたちの一票は、おとぎばなしの欲深爺の背負ったつづらのふたをあける役にだけたったようでさえあ・・・ 宮本百合子 「新しい潮」
・・・殊に彼はルイザを皇后に決定する以前、彼の選定した女はロシアの皇帝の妹アンナであった。しかし、ロシアは彼の懇望を拒絶した。そうして、第二に選ばれたものはこのハプスブルグの娘ルイザである。ルイザにとって、ロシアは良人の心を牽きつけた美しきアンナ・・・ 横光利一 「ナポレオンと田虫」
・・・既に決定せられたがように、譬えこの頂きに療院が許されたとしても、それは同時に尽くの麓の心臓が恐怖を忘れた故ではなかった。 間もなく、これらの腐敗した肺臓を恐れる心臓は、頂の花園を苦しめ出した。彼らは花園に接近した地点を撰ぶと、その腐敗し・・・ 横光利一 「花園の思想」
・・・周文は応永ごろの人であるが、彼の墨絵はこの時代の絵画の様式を決定したと言ってもよいであろう。そうしてこの墨絵もまた、日本文化の一つの代表的な産物として、世界に提供し得られるものである。もっとも、絵画の点では、雪舟が応仁のころにもうシナから帰・・・ 和辻哲郎 「埋もれた日本」
・・・もし色の美しさがその決定者であったならば、そうも言えるであろう。しかし赤茸の美しい色は非価値であった。色の美しさではなく味のよさに着目するとしても、子供には初茸の味と毒茸の味とを直接に弁別するような価値感は存せぬのである。茸の価値を子供に知・・・ 和辻哲郎 「茸狩り」
出典:青空文庫