・・・ 旅は、徒然の姿に似て居ながら、人間の決戦場かも知れない。 この巻の井伏さんの、ゆるやかな旅行見聞記みたいな作品をお読みになりながら、以上の私の注進も、読者はその胸のどこかの片隅に湛えておいて頂けたら、うれしい。 井伏さんと私と・・・ 太宰治 「『井伏鱒二選集』後記」
・・・ 大戦がはじまって、日一日と私たちの生活が苦しくなって来た頃、彼は、この戦争は永くつづきます、軍の方針としては、内地から全部兵を引き上げさせて満洲に移し、満洲に於いて決戦を行うという事になっているらしいです、だから私は女房を連れて満洲に・・・ 太宰治 「女神」
・・・つ描いている実に多くの若い男女も、一度、真に愛さんと欲する熱情に燃え、真に幸福を追求すれば、現実は、おのずから社会の矛盾をそれらの人々の前にさらし、希望するとしないにかかわらず、何かの形でその桎梏との決戦をよぎなくさせる。真によく愛すことと・・・ 宮本百合子 「新しい一夫一婦」
・・・日本では本土決戦というようなことがいわれはじめた。網走へ行って住もうと思って、七月私は福島県の弟の家族の疎開先まで行った。その時はもう津軽海峡の連絡船が動かなかった。八月六日広島に、九日長崎に原子爆弾がおちた。広島に応召中だった・・・ 宮本百合子 「年譜」
出典:青空文庫