・・・ 作者が、私の想像するように、早苗を真心から愛したく思っていたのに、彼の性格的な運命から事は悉く失敗し、最後に彼を捕えたのは、愛でもなく、沈思でもなく、何処までも彼を追い立てて行く武将の野心であったとするならば、最後の一句は、決して、其・・・ 宮本百合子 「印象」
・・・私達が沈思に誘われる点はレビューガールへ贈り物をしたいという熱中した娘の心持がいいかわるいかではなくて、寧ろ、金に困った現代の女学生が思いついたのは何であったかという事である、親の金をもち出そうとしないで、重役に私を買えと書いたところに、通・・・ 宮本百合子 「昨今の話題を」
・・・世界的悲劇の発生も、その血腥い過程とよりよき芽を育てようとする結果とを通して、一つの重大な、沈思すべき「現象」に対する平静と公正とを以て向われとうございます。 地上に起る総ての事に、よき魂は無関心であってはなりません。無智であってはなり・・・ 宮本百合子 「C先生への手紙」
・・・ ロマン・ローランは、人間の社会にのこされる最後の不公平は、健康と病とであると云っているけれども、女はその最後の不幸の中にもう一つ女であるということからの不幸の匣を蔵していることは、私たちを沈思させる事実だと思う。 人々は、結婚につ・・・ 宮本百合子 「『静かなる愛』と『諸国の天女』」
・・・私ははからず率直にかかれた数行をよんで沈思せずにいられなかった。 今日の現実の再検討については、新年に創刊号を出した綜合雑誌『生きた新聞』が、注意をひく二つの論文をのせている。村松五郎氏「幽霊ファッショ論」がその一つである。日本に純・・・ 宮本百合子 「新年号の『文学評論』その他」
・・・年中有意義無意義に繁忙で、本を読む時間も沈思する時間も持たない日常のひとたちは、全くたまの休みには家へかえって本でも読むのが最上のことである。 学生という夥しい青年たちの質は実にピンからキリまでであるから、なかには勿論下らない者もいるだ・・・ 宮本百合子 「「健やかさ」とは」
・・・芸術の民族性と世界性について沈思させる。正しく調整された民族自主の国々が自由にゆき来し、いろいろな作家が、いろいろの鏡、いろいろの角度で、内と外からそれぞれの国の生活を互に映し、互に表現し合い芸術化してゆく愉しさこそは、この地球に生れ合わし・・・ 宮本百合子 「春桃」
・・・彼は真に我々を驚歎させ又沈思させる意志と忍耐力と情熱とで、その生活の波濤をよく持ちこたえ、芸術活動は修飾ない巨大な労働であることを理解し、現実の社会を夥しい小説の中に再現しようとしたのであった。 一八三一年から終焉の二年前、最後の作とな・・・ 宮本百合子 「バルザックに対する評価」
・・・斯様な一事実に面した時、我々は、彼女が、自己の人としての運命、性格、力量を、どこまで深く沈思したか。無意識の裡に外界から暗示され、刺戟されて来たあらゆる理智概念、社会的風潮に対して、如何程の真実と純粋さとを以て自己という人格の、犯すべからざ・・・ 宮本百合子 「深く静に各自の路を見出せ」
・・・こに到らざるを得ないようにした錯綜、また〔三字伏字〕配置された紛糾混迷などを描き出して、せめては悲劇的なものにまで作品を緊張させ得たら、人は何かの形で今日の現実に暴威をふるう権力の害悪について真面目な沈思に誘われたであろうと思う。けれども、・・・ 宮本百合子 「冬を越す蕾」
出典:青空文庫