• ･･･しかも私が俥の上へ靴の片足を踏みかけたのと、向うの俥が桐油を下して、中の一人が沓脱ぎへ勢いよく飛んで下りたのとが、ほとんど同時だったのです。私はその姿を見るが早いか、素早く幌の下へ身を投じて、車夫が梶棒を上げる刹那の間も、異様な興奮に動かさ･･･ 芥川竜之介 「開化の良人」

• ･･･軒に松の家と云う電燈の出た、沓脱ぎの石が濡れている、安普請らしい二階家である、が、こうした往来に立っていると、その小ぢんまりした二階家の影が、妙にだんだん薄くなってしまう。そうしてその後には徐に一束四銭の札を打った葱の山が浮んで来る。と思う･･･ 芥川竜之介 「葱」

出典：青空文庫

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