・・・ 親たちが笑って、「お宅の雀を狙えば、銃を没収すると言う約条ずみです。」 かつて、北越、倶利伽羅を汽車で通った時、峠の駅の屋根に、車のとどろくにも驚かず、雀の日光に浴しつつ、屋根を自在に、樋の宿に出入りするのを見て、谷に咲残った・・・ 泉鏡花 「二、三羽――十二、三羽」
・・・ 例えば、背に腹はかえられず、困窮のあまり、つい台帳をごまかしたり、売上金を費消しているのを発見すると、もうそれだけで、十分馘首の口実にも保証金没収の理由にもなるのだった。 こうして、追っ払われた支店長は二三に止まらず、しかも、悪辣・・・ 織田作之助 「勧善懲悪」
・・・貴様ら、呉と郭と二人で、それじゃ夜明に出かけろ、今度はうまくやらないと荷物を没収されちゃ、怺えせんぞ!」「ああで」 荷物を積んだ橇は、門から厩の脇にひっぱりこまれた。橇の毛布には、田川の血が落ちて、凍りついていた。支那人はボール箱の・・・ 黒島伝治 「国境」
・・・そしてその電気事業のために、蕃人の家屋や耕作地を没収しようとしたのだ。蕃人の生活は極端に脅かされた。そこで、 蕃人たちは昨年十月立ち上った。すると、日本帝国主義は軍隊をさしむけ、飛行機、山砲、照明砲、爆弾等の精鋭な武器で蕃人たちを殺戮しよう・・・ 黒島伝治 「入営する青年たちは何をなすべきか」
・・・一、外部との通信、全部没収。一、見舞い絶対に謝絶、若しくは時間定めて看守立ち合い。一、その他、たくさんある。思い出し次第、書きつづける。忘れねばこそ、思い出さずそろ、か。(この日、退院の約束、断腸「出してくれ!」「やかま・・・ 太宰治 「HUMAN LOST」
・・・「被告の所有者たる襟は没収する限りでないから、一応被告に下げ渡します」と、裁判長が云った。「あの差押えた品を渡せ」と云うや否や、押丁はおれに例の紙包みを持って来て渡した。 その時おれは気を失った。それから醒覚したのは、監獄の部屋の中・・・ 著:ディモフオシップ 訳:森鴎外 「襟」
・・・同じ女の絵はがきでも初めは生徒の手から没収したのを後には自分でお客に売り歩くことになっている。要するにこの映画ではこういうものがあまり錯雑し過ぎていた、なんとなく渾然としない感じがする。これに比べると「モロッコ」の太鼓とラッパの一貫したモテ・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(1[#「1」はローマ数字、1-13-21])」
・・・いつか行ったとき無断で没収され、そうして強制的にせんたくを執行された上で返してくれたことがあった。そのネルの襟巻と四方太氏の玉子色の上等の襟巻との対照もおかしいものの一つではあったかもしれない。 夏目先生は四方太氏のきちんとした日常をう・・・ 寺田寅彦 「俳諧瑣談」
・・・牲を払って修得した火事教育をきれいに忘れてしまって、消防の事は警察の手にさえ任せておけばそれで永久に安心であると思い込み、警察のほうでもまたそうとばかり信じ切っていたために市民の手からその防火の能力を没収してしまった。そのために焼かずとも済・・・ 寺田寅彦 「函館の大火について」
・・・伯母に貰った本で火薬の製法を知り、薬屋でその材料を求めて製造にかかっているところを見付かって没収された話もある。 一八五二年すなわち十歳のとき学校へ入るために Eton に行ったが、疱瘡に罹りまた百日咳に煩わされたりした。それで Wim・・・ 寺田寅彦 「レーリー卿(Lord Rayleigh)」
出典:青空文庫