・・・またお前たちを没義道に取りあつかった。お前達が少し執念く泣いたりいがんだりする声を聞くと、私は何か残虐な事をしないではいられなかった。原稿紙にでも向っていた時に、お前たちの母上が、小さな家事上の相談を持って来たり、お前たちが泣き騒いだりした・・・ 有島武郎 「小さき者へ」
・・・が、こっちの働きは少しも向うへは通じませんで、向うの力ばかりが没義道に強うございました。竿は二本継の、普通の上物でしたが、継手の元際がミチリと小さな音がして、そして糸は敢えなく断れてしまいました。魚が来てカカリへ啣え込んだのか、大芥が持って・・・ 幸田露伴 「幻談」
・・・めんどうくさい、ちょんぎってしまえばいいに、とこんな没義道な事まで考える。頭を抱え込んでまるで学者が考え事して居る時みたいに家中をあるきまわる。床がギシギシ云う、天井にすすがぶらさがって居る。女中達が考えのいかにも無さそうなゲラゲラ声をたて・・・ 宮本百合子 「つぼみ」
出典:青空文庫