・・・「当代の文士は商賈の間に没頭せり」と書いた Porto-Riche は、実にわれを欺かずである。 ピエエル・オオビュルナンは三十六歳になっている。鬚を綺麗に剃っている。指の爪と斬髪頭とに特別の手入をしている。衣服は第一流の裁縫師に拵えさ・・・ 著:プレヴォーマルセル 訳:森鴎外 「田舎」
・・・人間は生れるときから死ぬまで恋愛ばかりに没頭しているのではありません。又、他人の恋愛問題と自分のそれとは全然個々独立したもので、それぞれ違った価値と内容運命とを持っている筈のものです。恋愛とさえ云えば、十が十純粋な麗わしい花であるとも思えま・・・ 宮本百合子 「愛は神秘な修道場」
・・・に没頭したのであったが、三ヵ月にあまるこの仕事への没頭――調べたり、ノートしたり、書いたりしてゆく過程で循環してつきない自家中毒をおこしていた精神活動の上に知らず知らず、やや健全な客観の習慣をとりもどすことが出来たのであった。翌年の秋から「・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第二巻)」
・・・に「伸子」の作者は、所謂文壇からもはなれていたし、新感覚派からも遠く、無産階級文学運動については、作品をよんでいるだけで、理論的な問題は何ひとつ理解していなかった。足かけ三年作者はひたすら「伸子」に没頭した。人間らしい生活の多様さや発展、生・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第六巻)」
・・・そこへ行くと、日本人にはその作品がなっていようがいまいが、他人が買おうが買うまいがそんなことはおかまいなしに、ただ書かずにいられないから書くという心持からその為事に没頭する気質が強いように考えられます。 今私が言おうとする青年の同人雑誌・・・ 宮本百合子 「アメリカ文士気質」
・・・ 父のすすめでベルリン大学へ赴いたカールは、あまり人ともつきあわず学問と芸術とに没頭した。三冊の詩集がつくられた。はじめの二冊は「愛の書」、あとの一冊は「歌の書」、そして三冊ともその年の十二月に、多分はクリスマスの贈物として愛するイエニ・・・ 宮本百合子 「カール・マルクスとその夫人」
・・・ 国語の性質、普及の範囲などと云うことは、純粋に芸術に没頭した場合、決して、第一浮んで来る問題ではないと思います。〔一九二二年四月〕 宮本百合子 「芸術家と国語」
・・・ 私は少女小説と云うものについて随分いろいろの事を考えて居ますけれ共又私の性質からそれに没頭してそのためにつくすと云う事は出来ません。 世の中にありあまるほどいらっしゃる少女小説の作者に申します。 失礼な申し分かも知れませんが若・・・ 宮本百合子 「現今の少女小説について」
・・・そうして地下の営みに没頭することを自分に誓った。今気づいてもまだ遅くない。三 成長を欲するものはまず根を確かにおろさなくてはならぬ。 上にのびる事をのみ欲するな。まず下に食い入ることを努めよ。四 早年にし・・・ 和辻哲郎 「樹の根」
・・・低劣なる価値に没頭して一切の高き価値に無関心なる雰囲気においては、価値は明らかに逆倒せられ人類の意志は歪にせられている。岸田君のいわゆる「世界の美術の病気」とはこれであろう。ここに人類の意志を明らかにし、真実の価値の階級を樹立することは、大・・・ 和辻哲郎 「『劉生画集及芸術観』について」
出典:青空文庫