・・・そのほか、新藤源四郎、河村伝兵衛、小山源五左衛門などは、原惣右衛門より上席でございますし、佐々小左衛門なども、吉田忠左衛門より身分は上でございますが、皆一挙が近づくにつれて、変心致しました。その中には、手前の親族の者もございます。して見れば・・・ 芥川竜之介 「或日の大石内蔵助」
・・・毎夕の対酌に河村君は予に語った。妻に子がなければ妻のやつは心細がって気もみをする、親類のやつらは妾でも置いてみたらという。子のないということはずいぶん厄介ですぜ、しかし私はあきらめている、で罪のない妻に心配させるようなことはけっしてしません・・・ 伊藤左千夫 「紅黄録」
・・・「――これ美味しいわね、どこの」「河村のんどっせ」 章子と東京の袋物の話など始めた女将の、大柄ななりに干からびたような反歯の顔を見ているうちに、ひろ子は或ることから一種のユーモアを感じおかしくなって来た。彼女はその感情をかくして・・・ 宮本百合子 「高台寺」
・・・島田の河村さんの御夫婦には一寸往来でアイサツしたきりでよく存じませんが、お父さんが朝のうち行っていらっしゃるなんて、何といい光景でしょう。そして、お父さんは東京から来た坐椅子だとか何だとか、たのしんで自慢したり、又心配したりしていらっしゃる・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・ 前の河村さんで兎を相当どっさり飼っていることは知っているでしょうか。線路沿いの三角の空地のところに、段々の巣箱をつくってそのなかにアンゴラや何かがいます。去年は雨が多すぎて兎の体にわるかったそうですが、今年は又土瓶水という有様で、兎は・・・ 宮本百合子 「二人の弟たちへのたより」
・・・○河村の家ではきょう板じきに石臼を出して粉をひいている。○きのうは鍛冶屋の仕事仕度○黒ぶちの眼鏡にジャンパーを着たが「世界稀な憲兵政治」をもって国民にのぞんだと云っている記事を、おどろきをもってよみかえした。 何・・・ 宮本百合子 「無題(十二)」
出典:青空文庫