・・・昔話をするのか、大法螺を吹くのかと思われるのである。ところが、それが事実である。三方四方がめでたく納まった話であるから、チルナウエルは生涯人に話しても、一向差支はないのである。 著:ダビットヤーコプ・ユリウス 訳:森鴎外 「世界漫遊」
・・・の大法螺でも、夢想兵衛の「夢物語」でも、ウェルズの未来記の種類でも、みんなそういうものである。あらゆるおとぎ話がそうである。あらゆる新聞講談から茶番狂言からアリストファーネスのコメディーに至るまでがそうである。笑わせ怒らせ泣かせうるのはただ・・・ 寺田寅彦 「科学と文学」
・・・西洋の新らしい説などを生噛りにして法螺を吹くのは論外として、本当に自分が研究を積んで甲の説から乙の説に移りまた乙から丙に進んで、毫も流行を追うの陋態なく、またことさらに新奇を衒うの虚栄心なく、全く自然の順序階級を内発的に経て、しかも彼ら西洋・・・ 夏目漱石 「現代日本の開化」
・・・死ぬか生きるかと云う戦争中にこんな小説染みた呑気な法螺を書いて国元へ送るものは一人もない訳ださ」「そりゃ無い」と云ったが実はまだ半信半疑である。半信半疑ではあるが何だか物凄い、気味の悪い、一言にして云うと法学士に似合わしからざる感じが起・・・ 夏目漱石 「琴のそら音」
・・・ どうも斯う人の居ない海岸などへ来て、つくづく夕方歩いていると東京のまちのまん中で鼻の赤い連中などを相手にして、いい加減の法螺を吹いたことが全く情けなくなっちまう。どうだ、この頁岩の陰気なこと。全くいやになっちまうな。おまけに海も暗くな・・・ 宮沢賢治 「楢ノ木大学士の野宿」
・・・このそねみと卑しめとは、他に対する批判と厳密に区別されなくてはならない。法螺ふきをそしるとか、自慢話を言いけすとかというのは、正当な批判であって、そねみや卑しめではない。そねむのは優れた価値を引きおろすことであり、卑しめるのは人格に侮蔑を加・・・ 和辻哲郎 「埋もれた日本」
出典:青空文庫