・・・「漂う泡沫のように捕捉し難い世界をつくる」と形容されているこの婦人作家が、世帯じみた現実的な部屋のことをさして書いたと私は考えにくい。ウルフは、観念の世界で、世俗の女とちがう独特な境地を獲得した自身について、部屋というものを全く一つの象徴と・・・ 宮本百合子 「夫婦が作家である場合」
・・・「私の東京地図」と「女作者」「虚偽」「泡沫の記録」などをよみあわせたとき、二十年前に「キャラメル工場から」を書き、プロレタリア文学の歴史に一定の業績をのこしているこの作家が、複雑な良心の波にゆすられながら、民主主義の婦人作家として自身に課し・・・ 宮本百合子 「婦人作家」
・・・銀の珠でも溶かしたように重く、鈍く輝く水の中では、微かに藻が揺れ、泡沫が立ちのぼります。肩にたれた髪から潮の薫りが流れ出して、足許には渚の桜貝が散りそうです。 次第にお城の柱に朝日が差して来る頃になると、鏡の前に立ったまま、王女の着物は・・・ 宮本百合子 「ようか月の晩」
出典:青空文庫