・・・ いわゆる洋学校は人を導くべき人才を育する場所なれば、もっぱら洋書を研究し、難字をも読み、難文をも翻訳して、後進の便利を達すべきなり。方今の有様にては、読書家も少なく翻訳書もはなはだ乏しければ、国内一般に風化を及ぼすは、三、五年の事・・・ 福沢諭吉 「学校の説」
・・・これにてたいてい洋書を読む味も分り、字引を用い先進の人へ不審を聞けば、めいめい思々の書をも試みに読むべく、むつかしき書の講義を聞きても、ずいぶんその意味を解すべし。まずこれを独学の手始とす。かつまた会読は入社後三、四ヶ月にて始む。これにて大・・・ 福沢諭吉 「慶応義塾新議」
・・・例えば学校の女生徒が少しく字を知り又洋書など解し得ると同時に、所謂詠歌国文に力を籠め、又は小説戯作など読んで余念なきものあり。文を学ぶには国文小説も甚だ有益なれども、年少き時には外に勉む可きもの尚お多し。詠歌には巧なれども自身独立の一義に就・・・ 福沢諭吉 「新女大学」
・・・この時に洋書を読みはじめたるは、何の目的をもってしたるか、今において自から解すること能わず。 当時、世に洋学者なきにあらざれども、たいてい皆、医術研究のためにする者にして、前途の目的もあることなれども、余が如きはもと医家の子にあらず、ま・・・ 福沢諭吉 「成学即身実業の説、学生諸氏に告ぐ」
・・・ このように、現在私たちの文化の実体は益々世界的な関係で充たされて来ているのであるけれども、それなら今日自由に外国の事情を知ることが出来るかというと、それは大きい困難に面している。洋書の輸入は為替その他の理由で特別な狭い範囲だけ許されて・・・ 宮本百合子 「今日の生活と文化の問題」
・・・フェランドは蘭訳の書を先輩の日本訳の書に引き較べて見たのであるが、新しい蘭書を得ることが容易くなかったのと、多くの障碍を凌いで横文の書を読もうとする程の気力がなかったのとの為めに、昔読み馴れた書でない洋書を読むことを、翁は面倒がって、とうと・・・ 森鴎外 「カズイスチカ」
・・・ 綾小路は椅背に手を掛けたが、すぐに据わらずに、あたりを見廻して、卓の上にゆうべから開けたままになっている、厚い、仮綴の洋書に目を着けた。傍には幅の広い篦のような形をした、鼈甲の紙切小刀が置いてある。「又何か大きな物にかじり附いているね・・・ 森鴎外 「かのように」
・・・ この時パアシイ族のあるものが「危険なる洋書」という語を発明した。 危険なる洋書が自然主義を媒介した。危険なる洋書が社会主義を媒介した。翻訳をするものは、そのまま危険物の受売をするのである。創作をするものは、西洋人の真似をして、舶来・・・ 森鴎外 「沈黙の塔」
・・・ 石田は床の間の隅に立て掛けてある洋書の中から La Bruyre の性格という本を抽き出して、短い鋭い章を一つ読んではじっと考えて見る。又一つ読んではじっと考えて見る。五六章も読んだかと思うと本を措いた。 それから舶来の象牙紙と封・・・ 森鴎外 「鶏」
出典:青空文庫