・・・ 君も知っている通り、千枝子の夫は欧洲戦役中、地中海方面へ派遣された「A――」の乗組将校だった。あいつはその留守の間、僕の所へ来ていたのだが、いよいよ戦争も片がつくと云う頃から、急に神経衰弱がひどくなり出したのだ。その主な原因は、今・・・ 芥川竜之介 「妙な話」
・・・そこには両方の国から、ただ一人ずつの兵隊が派遣されて、国境を定めた石碑を守っていました。大きな国の兵士は老人でありました。そうして、小さな国の兵士は青年でありました。 二人は、石碑の建っている右と左に番をしていました。いたってさびしい山・・・ 小川未明 「野ばら」
・・・南方派遣日本語教授要員の募集の記事が、ふと眼に止ったのである。「南方へ日本語を教えに行く人を募集しているのだわ。」 と、呟きながら読んで行って、「応募資格ハ男女ヲ問ハズ、専門学校卒業又ハ同程度以上ノ学力ヲ有スル者」という個所まで来る・・・ 織田作之助 「旅への誘い」
・・・満洲に派遣されている軍隊と、支那に派遣されている軍隊は植民地満洲、蒙古をしっかりと握りしめるために番をさせられているのだ。ブルジョアの所有である満鉄の番をさせられるために派遣されているのだ。そして、満洲、支那に於ける中国人労働者及び鮮人労働・・・ 黒島伝治 「入営する青年たちは何をなすべきか」
・・・二年兵になって暫らく衛戍病院で勤務して、それからシベリアへ派遣されたのであった。一緒に、敦賀から汽船に乗って来た同年兵は百人あまりだった。彼等がシベリアへ着くと、それまでにいた四年兵と、三年兵の一部とが、内地へ帰って行った。 シベリアは・・・ 黒島伝治 「雪のシベリア」
・・・ そっちから派遣されてきたオルグの、懲役五年を求刑されていた黒田という人は、立ち上って、「裁判長がそのような問いを発すること自体が、われ/\*****を**するものである。******というものは後で考えていて間違っていたから**すると・・・ 小林多喜二 「母たち」
・・・それは、北海派遣××部隊から発せられたお便りであって、受け取った時には、私はその××部隊こそ、アッツ島守備の尊い部隊だという事などは知る由も無いし、また、たといアッツ島とは知っていても、その後の玉砕を予感できるわけは無いのであるから、私はそ・・・ 太宰治 「散華」
・・・ここがT君と陸地測量部から派遣された二人の測夫と三人の仮の宿である。これからまた少し離れた斜面にヤシャブシを伐採して急造した風流な緑葉ぶきの炊事小屋が建ててある。三本の木の株で組み立てられた竈の飯釜の下からは楽しげな炊煙がなびいている。小屋・・・ 寺田寅彦 「小浅間」
・・・その冒頭に、先ず有能な学者を日本に派遣して大学地震研究所におけるあらゆる研究の模様を習得せしめよということ、次に末広所長を米国に迎えて講演させ、また米国における将来の研究方針についてその助言を求め、また末広式の地震分析器を各所に据え付けて地・・・ 寺田寅彦 「工学博士末広恭二君」
・・・ 北極をめぐる諸科学国が互いに協力して同時的に気象学的ならびに一般地球物理学的観測を行なういわゆるインターナショナル・ポーラー・イヤーに際会してソビエト政府は都合八組の観測隊を北氷洋に派遣した。その中の数隊は極北の島々にそれぞれの観測所・・・ 寺田寅彦 「北氷洋の氷の割れる音」
出典:青空文庫