・・・ 前年度の秋から、文芸懇話会賞の授賞者選出にからんで文化統制の問題が一般文化人の関心をあつめていたが、この年は、ヒューマニズムの問題が、単に文学における能動精神、行動主義一流派の主張という範囲を脱し、暴力からの人間再生の要求として拡げら・・・ 宮本百合子 「今日の文学の展望」
・・・プロレタリア文学は、その発生の本質において、そもそも既成のブルジョア文学のなかでの一流派ではなかった。その時分出現した新感覚派と称する流派と並んでブルジョア文学の伝統とその流転のはてに咲きいでた新種のはやりではなかった。文学のうまれる母胎と・・・ 宮本百合子 「作家の経験」
・・・したがって、それらの人々の文学上の流派が――新感覚派にしろ、新心理主義にしろ、当時に何かアッピールするものがあったために、商業ジャーナリズムの上に流通するようになるとともに、同人雑誌の中に自然の生存競争が生じ、数名の「老舗」と、歴史の波間に・・・ 宮本百合子 「しかし昔にはかえらない」
・・・はプロレタリア文学に不満を持つ広い範囲の知識人、文学愛好者の支持を受けたものであったが、文学の流派としては僅かの寿命で衰退したことも、日本の文化の伝統の性質と考え合せて意味深く思われる。大戦後のフランスで過去の文化の崩壊の形として現れたキュ・・・ 宮本百合子 「昭和の十四年間」
・・・現実から学んで芸術を創造すべきことを主張した所謂写生文派の人々、子規、虚子、漱石、或は直接この流派に属したのではなかったが、森鴎外のような優秀な芸術的資質をもった作家まで、等しく自然主義文学の運動に対して必しも同感的でなかったことはまことに・・・ 宮本百合子 「「土」と当時の写実文学」
・・・ 第一次大戦の後には、誰にでも知られているとおりヨーロッパには新しい芸術の流派として、ダダイズム、キュビズムなどが広汎な心理分析主義の流行の上に発生しました。第一次大戦によって中流階級が生活の安定を破られ、これまでの社会秩序と価値評価の・・・ 宮本百合子 「討論に即しての感想」
・・・ところで、剣道の流派というものも、能楽も昔は一子相伝的で、特に刀鍛冶など、急所である湯加減を見ようと手など入れればその手を斬り落される程のものであったと云われている。歴史が今日の私達に教えているところに従えば、最も封建的な形でのギルドが、一・・・ 宮本百合子 「文学上の復古的提唱に対して」
・・・文学が伝統的な枠の中だけでは決して新しくなってゆけない理由がここにある、流派や手法だけでの新しさで、文学の本質が新しくされるものではない理由がある。 その意味で「文学のことば」もかわって来ないわけにゆかない。簡明で云おうとすること、内容・・・ 宮本百合子 「文学と生活」
・・・このような形で発端を示している新しいものと旧いものとの相剋錯綜は、日本文学の今日迄に流派と流派との間に生じたばかりでなく、一人の作家の内部にも現れているのである。 坪内逍遙の「小説神髄」は近代日本文学にとっての暁の鐘であったとされている・・・ 宮本百合子 「文学における今日の日本的なるもの」
・・・硯友社時代の師匠、その弟子という関係でかためられた流派的存在、対立が、各学校の文科卒業生たちが文化面での活動分子として数に於ても増大して来たと同時に、出版事業の形態も拡大し、より広汎な、各流派を包括する文壇が形成された。 歳月を経るにつ・・・ 宮本百合子 「文学の大衆化論について」
出典:青空文庫