・・・芭蕉を、彼の生きた時代の世相との関係でみれば、世俗的には負けていて、世事万端の流転を自然とともに眺める哲学の内容も、仏教渡来後の日本の知識人として当時に於いてもありふれたものであった。哲学として或は人生観のつづまりとしては、西鶴も近松門左衛・・・ 宮本百合子 「芭蕉について」
・・・地上には、一日一刻と流転がある。或る問題、或る思想、而して或る亢奮――。自分の生活を純粋なものにしたい望を持って、或る人は、あらゆる今日の問題から、耳をそむけている。又或る人は、同じ目的で、今の主題の第一音を真先に叩こうとしている。 ど・・・ 宮本百合子 「一粒の粟」
・・・ 近代国家イギリスを盛立てたエリザベス女皇の時代の社会の文学として、シェークスピアが、古代ギリシャ文学などに女が運命の神と男の掠奪のままに生涯を流転した歴史から出た当時の女が、自分の心情に従ってよくもわるくも動こうとする姿を描いているの・・・ 宮本百合子 「若い婦人のための書棚」
・・・その苛酷な野蛮な、周囲の日常生活の流転の姿に痛む若い日のゴーリキイの心が、人間社会のよりひろさ、より明るさを求めてどんなに苦心して本を読んで行ったかということは「人々の中」などにまざまざと描かれている。読むこと、読んだことを考えることとその・・・ 宮本百合子 「若い婦人の著書二つ」
・・・彼は、「生の流転をはかなむ心持ちに纏絡する煩わしい感情から脱したい、乃至時々それから避けて休みたい、ある土台を得たい」という心を起こすのである。そうしてそれが、たとい時に彼を宗教へ向かわせるにしても、結局宗教芸術に現われた、「永久味」の味到・・・ 和辻哲郎 「享楽人」
出典:青空文庫