・・・ これが二十年前のこういう種類の飲食店だと、店の男がもみ手をしながら、とにかく口の先で流麗に雄弁なわび言を言って、頭をぴょこぴょこ下げて、そうした給仕女をしかって見せるところであろうが、時代の一転した一九三五年の給仕監督はきわめて事務的・・・ 寺田寅彦 「三斜晶系」
・・・がひとしく句読点もない昔の物語風な文章の流麗さで持てはやされたことと思い合わせ、私は日本の老大家の完成と称するものの常態となっているような文学上の後ずさりを、意味ふかく考えるのである。 さらに我々の深い注意と観察を呼ぶことは、一方におい・・・ 宮本百合子 「一九三四年度におけるブルジョア文学の動向」
・・・フランスの一応恋愛を尊重するかのように見える習慣、婦人に対してつくす男の騎士道などというものを疑わず、その上に安住して、流麗な、傍観的態度でどっちかといえば甘い、客間で婦人たちに音読してきかせるにふさわしいような文章の作品を書いて行く。・・・ 宮本百合子 「ツルゲーネフの生きかた」
・・・には、これまでの詩の華麗流麗な綾に代る人生行路難の暗喩がロマンティックな用語につつまれつつ、はっきり主体をあらわしている。「野路の梅」にも同じ傾きとして、浮薄な世間の毀誉褒貶を憤る心が沁み出ている。これは、『若菜集』によって、俄に盛名をあげ・・・ 宮本百合子 「藤村の文学にうつる自然」
・・・で、わたくしは、雲岡の石像が示しているような、西方から来た様式と、漢代の画像石などの示しているような、流麗な線、細い肢体を主にするあの様式とが、相混じて一つの特殊な様式を作り、それが推古仏の源流となったのではなかろうかと空想したりなどしてい・・・ 和辻哲郎 「麦積山塑像の示唆するもの」
出典:青空文庫