・・・鍔広のメキシコ帽をかぶり…… 空は水蒸気の多い水浅黄だ。植物は互に縺れこんぐらかって悩ましく鬱葱としている。彼の飾帯はその裡で真紅であった。強烈な色彩がいつまでも、遠くから見えた。――ミシシッピイ――〔一九二四年十一月〕・・・ 宮本百合子 「翔び去る印象」
・・・ 婆さんは、私の家に、金のなる木があって、私は不死の生をさずかって居るとでも思って居る様な口調で、スラスラと「何のこれしきの事」と云う調子で云う。「ほんにそうだのし。 浅黄の木綿の大風呂敷を斜に背負って居るお繁婆さん・・・ 宮本百合子 「農村」
・・・ 水浅黄っぽい小紋の着物、肉づきのよい体に吸いつけたように着、黒繻子の丸帯をしめた濃化粧、洋髪の女。庭下駄を重そうに運んで男二人のつれで歩いて来た。「どっちへ行こうかね」「――どちらでも……」 女、描いた眉と眼元のパッと・・・ 宮本百合子 「百花園」
・・・ 百姓は浅黄股引姿でブルブル震えながら云った。「アアこれはこれは天狗様。話に聞いた天狗と云うのは、あなたのことでございましたか。昔から天狗に遭えば生身を八ツ裂にされて喰われるということは聞いておりました。この山中で逃れる術もあります・・・ 宮本百合子 「ブルジョア作家のファッショ化に就て」
・・・私は歯をくいしばったまんま、ツイと手をのばしてわきにたて廻してあるはりまぜの屏風のうらをひっかいた。浅黄色の裏は、「ソーレ」と云った様に白いはらわたをむき出した。 千世子のどうしようもないかんしゃくを、嘲笑う様にあさぎのかみはヘ・・・ 宮本百合子 「芽生」
出典:青空文庫