・・・現にあのさん・じょあん・ばちすたさえ、一度などは浦上の宗徒みげる弥兵衛の水車小屋に、姿を現したと伝えられている。と同時に悪魔もまた宗徒の精進を妨げるため、あるいは見慣れぬ黒人となり、あるいは舶来の草花となり、あるいは網代の乗物となり、しばし・・・ 芥川竜之介 「おぎん」
一 じゅりあの・吉助は、肥前国彼杵郡浦上村の産であった。早く父母に別れたので、幼少の時から、土地の乙名三郎治と云うものの下男になった。が、性来愚鈍な彼は、始終朋輩の弄り物にされて、牛馬同様な賤役に服さ・・・ 芥川竜之介 「じゅりあの・吉助」
・・・けれども、今日引こもっては、もう大浦、浦上の天主堂も見ずに仕舞わねばならない。其は残念だ。Y、天を睨み「これだから貧棒旅行はいやさ」と歎じるが、やむを得ず。自動車をよんで、大浦天主堂に行く。坂路の登り口に門番があり、爺さんが居る。こ・・・ 宮本百合子 「長崎の一瞥」
・・・福済寺、大浦、浦上天主堂への紹介を得、宿に帰った。 独りで待たされていたY、退屈しぬき、私の顔を見るといきなり云うことには、「――どうだった? プティ・ペダント」 二時頃から小糠雨が降り出す。長崎に切支丹伝道が始って間もなく・・・ 宮本百合子 「長崎の印象」
出典:青空文庫