・・・れば有と見えて扇の裏絵覚束な 波翻舌本吐紅蓮閻王の口や牡丹を吐かんとす 蟻垤蟻王宮朱門を開く牡丹かな浪花の旧国主して諸国の俳士を集めて円山に会筵しける時萍を吹き集めてや花筵 傚素堂乾・・・ 正岡子規 「俳人蕪村」
・・・も書けない様なものがこんな事を云うのもあんまり生意気の様ではあるが、やっぱりあの頃に二葉亭四迷が「浮草」ほどの心理描写をしたものが世に出て居たとすれば、紅葉山人の終りの方の作には或る面白い変化があれば、あられたろうと思う。 あの「青葡萄・・・ 宮本百合子 「紅葉山人と一葉女史」
・・・ 出版不況は、戦後の浮草的出版業を淘汰したと同時に、同人雑誌の活溌化をみちびき出している。「先輩たちが同人雑誌を守って十年十五年と修業したのち、やっと文壇に出られた」そのような「同人雑誌本来の面目にかえる日が来たことを」火野葦平はよろこ・・・ 宮本百合子 「しかし昔にはかえらない」
・・・いて、面積のだだっぴろいかおにけじめなく御しろいをぬりつけてすましたようなかまえをして盛にその日かせぎの、はげしい欲望にかられて居る男を長きせるのがんくびでおびきよせて居る女につりこまれて、はかない、浮草のそれのようにおびえる一夜を男にあき・・・ 宮本百合子 「ピッチの様に」
出典:青空文庫