・・・ しかし日に日に経験する異様なる感激は、やがて朧ながらにも、海外の風物とその色彩とから呼起されていることを知るようになった。支那人の生活には強烈なる色彩の美がある。街を歩いている支那の商人や、一輪車に乗って行く支那婦人の服装。辻々に立っ・・・ 永井荷風 「十九の秋」
・・・ 明治四十一年わたしは海外より還って再び島田を見た時、島田は既に『古文旧書考』四巻の著者として、支那日本両国の学界に重ぜられていた。一日島田はかつて爾汝の友であった唖々子とわたしとを新橋の一旗亭に招き、俳人にして集書家なる洒竹大野氏をわ・・・ 永井荷風 「梅雨晴」
・・・されば其の際僕の身は猶海外に在ったから拙著の著作権を博文館に与えたという証書に記名捺印すべき筈もなく、又同書出版の際内務省に呈出すべき出版届書に署名した事もないわけである。官庁及出版商に対する其等の手続は思うに当時博文館内に在った木曜会会員・・・ 永井荷風 「申訳」
・・・学校を保護するに、かねて、学者の篤志なるものを撰び、これに年金をあたえて、その生涯安身の地位を得せしめたらば、おのずから我が学問社会の面目を改めて、日新の西洋諸国に並立し、日本国の学権を拡張して、鋒を海外に争うの勢にいたるべきなり。 財・・・ 福沢諭吉 「学問の独立」
・・・歴山王、ナポレオンの功業を察し、ニウトン、ワット、アダム・スミスの学識を想像すれば、海外に豊太閤なきに非ず、物徂徠も誠に東海の一小先生のみ。わずかに地理歴史の初歩を読むも、その心事はすでに旧套を脱却して高尚ならざるを得ず。いわんや彼の西洋諸・・・ 福沢諭吉 「旧藩情」
・・・エリカ・マンはまた子供のための冒険物語「シュトッフェルの海外旅行」をも書いているそうである。 ナチス・ドイツの絶滅した今日、エリカ・マンはふたたび故国のドイツの土をふんでいるであろう。が、行動性にとみ、民主精神に燃える彼女に、敗れはてた・・・ 宮本百合子 「明日の知性」
・・・ 僅に、九州や中国の、徳川からの監視にやや遠い地域の大名たちだけが、密貿易や僅かの海外との交渉で、より新しい生活への刺戟となる文化を摂取した。維新に、薩長が中心となったということは、深い必然があったのである。 ところで、この明治維新・・・ 宮本百合子 「木の芽だち」
・・・ とは云え、紅葉山人は外国のものも沢山こなして居られたのではあるが、一般的に海外の文学的思想が流入して居なかったから、よし書かれたとしても、「此のぬし」「おぼろ舟」等の様な賞讚は或は受けられなかったかもしれない。 時代のためも有ろう・・・ 宮本百合子 「紅葉山人と一葉女史」
・・・「しかし、果して所期の成果をおさめておりますかどうかは、専門家の方々と海外の観衆の批判にまたなくてはなりません」 何となし、きいていて変な気がした。日本では、そういうことのわかるのは専門家だけで、海外なら一般の観衆のレベルがそこまで高い・・・ 宮本百合子 「国際観光局の映画試写会」
・・・ 日本文学と欧州文学との接触を、これまでのように欧州文学をこちらへ移入する面からのみでなく、日本文学を海外へ紹介する形に於て行おうとする動きも、この年の注目すべき一つの文学現象であった。最も肉体的表情であって翻訳を必要としないスポーツで・・・ 宮本百合子 「今日の文学の展望」
出典:青空文庫