・・・ 一週間ばかり外米混入の飯を食いつづけた後、一日だけまぜものなしの内地米に戻ると、はじめて本当に身につくものを食った感じで、その身につくものが快よく胃の腑から直ちに血管にめぐって行くようで、子供らは、なんばいもなんばいも茶碗を出すのであ・・・ 黒島伝治 「外米と農民」
・・・どんな偉大な作家の傑作でも――むしろそういう人の作ほど豊富な文献上の材料が混入しているのは当然な事であった。それを詮索するのは興味もあり有益な事でもあるが、それは作と作家の価値を否定する材料にはならなかった。要は資料がどれだけよくこなされて・・・ 寺田寅彦 「浅草紙」
・・・四言詩の中に五言六言の句の混入することもあるのである。 中央アジア東トルキスタン辺の歌謡を見ると勿論色々な型式があるが、中には八、五、八、五の型式がある。例えば。。。。括弧の中が一シラブルである。これらは少し・・・ 寺田寅彦 「短歌の詩形」
・・・ただ困る事には今の蓄音機に避くべからざる雑音の混入が、あたかも三色版の面にきたないしみの散点したと同様であるようにも思われる。しかし人間の耳には不思議な特長があって、目の場合には望まれない選択作用が行なわれる。すなわち雑多な音の中から自分の・・・ 寺田寅彦 「蓄音機」
・・・実際アイヌの先祖の言葉であるのか、また我々の先祖の言葉が今のアイヌの言語に混入しているのか、あるいは朝鮮、支那、前インド、南洋から後に渡来したのがアイヌの先祖と吾等の先祖の言語に混合しているのかそれはなかなか容易に決定し難い問題である。・・・ 寺田寅彦 「土佐の地名」
・・・しかし、なにぶんにももうだいぶ古いことであって、記憶が薄くなっている上に、何度となく思い出し思い出ししているうちには知らず知らずいろいろな空想が混入して、それがいつのまにか事実と完全に融け合ってしまって、今ではもうどこまでが事実でどこからが・・・ 寺田寅彦 「B教授の死」
・・・ ありのままの事実によらず、作者の想像を多く混入した写実派あるいは自然派の小説や戯曲のごときものは、もはや普通の意味において事実の叙述でない。しかしそうかと云ってそれはまた嘘でもない。ある真実なるものの描写でなければ何の価値があるだろう・・・ 寺田寅彦 「文学の中の科学的要素」
・・・この人の句がうまく適度に混入しているために一巻に特殊な色彩の律動を示していることは疑いもないことであるが、ただもし凡兆型の人物ばかりが四人集まって連句を作ったとしたらその成績はどんなものであるかと想像してみれば、おのずから前述の所論を支持す・・・ 寺田寅彦 「連句雑俎」
・・・この笑う刹那には倫理上の観念は毫も頭を擡げる余地を見出し得ない訳ですから、たとい道徳的批判を下すべき分子が混入してくる事件についても、これを徳義的に解釈しないで、徳義とはまるで関係のない滑稽とのみ見る事もできるものだと云う例証になります。け・・・ 夏目漱石 「文芸と道徳」
・・・この四大別の上に連想から来る情緒がいかにして混入するかを論じなければならんのですが、これも時間がないからやめます。 文芸家の理想をようやくこの四種に分けました。この分類は私が文学論のなかに分けておいたものとは少々違いますが、これは出立地・・・ 夏目漱石 「文芸の哲学的基礎」
出典:青空文庫