・・・そうして、それを投入した上で、よく溶解し混和するようにかき交ぜなければならない。考えてみるとこれはなかなか大変な仕事である。 こんな事を考えてみれば、毒薬の流言を、全然信じないとまでは行かなくとも、少なくも銘々の自宅の井戸についての恐ろ・・・ 寺田寅彦 「流言蜚語」
・・・支那の思想は老荘と仏教とを混和した宋以後のものである。西洋の思想は十九世紀のロマンチズムとそれ以後の個人主義的芸術至上主義とである。わたくしの一生涯には独特固有の跡を印するに足るべきものは、何一つありはしなかった。 日本の歴史は少年のこ・・・ 永井荷風 「西瓜」
・・・ 吉里は平田と善吉のことが、別々に考えられたり、混和ッて考えられたりする。もう平田に会えないと考えると心細さはひとしおである。平田がよんどころない事情とは言いながら、何とか自分をしてくれる気があッたら、何とかしてくれることが出来たりそう・・・ 広津柳浪 「今戸心中」
・・・即ちその人は色々時代的な感興を享けるのでなくて、時代の中にあるものを吸って真の時代に混和させ、而して自分を作り上げるのです。時代通りにすることは無意味です。然しするもしないも自分の誠心一つではあるが、この真の時代と混和した心持こそ、初めてそ・・・ 宮本百合子 「今日の女流作家と時代との交渉を論ず」
出典:青空文庫