・・・ 熱沙限りなきサハラを旅する隊商も時々は甘き泉わき緑の木陰涼しきオーシスに行きあいて堪え難き渇きと死ぬばかりなる疲労を癒する由あれど、人生まれ落ちての旅路にはただ一度、恋ちょう真清水をくみ得てしばしは永久の天を夢むといえども、この夢はさ・・・ 国木田独歩 「わかれ」
・・・ 参考書のたぐい田中智学 大国聖日蓮聖人清水竜山 日蓮聖人の生涯山川智応 日蓮聖人伝十講有朋堂文庫 日蓮聖人文集室伏高信 立正安国論高山樗牛 日蓮とはいかなる人ぞ姉崎正治 法華経の行者日蓮・・・ 倉田百三 「学生と先哲」
・・・字滝の上というところにかかれる折しも、真昼近き日の光り烈しく熱さ堪えがたければ、清水を尋ねて辛くも道の右の巌陰に石井を得たり。さし当りては鬢水よりもこれこそ嬉しけれと、汲みて喉を潤おしつ、この井に名ありやと問えばなしという。名のなくてすみぬ・・・ 幸田露伴 「知々夫紀行」
・・・ 十三日、明けて糠くさき飯ろくにも喰わず、脚半はきて走り出づ。清水川という村よりまたまた野辺地まで海岸なり、野辺地の本町といえるは、御影石にやあらん幅三尺ばかりなるを三四丁の間敷き連ねたるは、いかなる心か知らねど立派なり。戸数は九百ばか・・・ 幸田露伴 「突貫紀行」
・・・洗面器。清水桶。排水桶。ヒシャク一個。 縁のない畳一枚。玩具のような足の低い蚊帳。 それに番号の片と針と糸を渡されたので、俺は着物の襟にそれを縫いつけた。そして、こっそり小さい円るい鏡に写してみた。すると急に自分の顔が罪人になって見・・・ 小林多喜二 「独房」
・・・東京から地方へのがれ出るには、関西方面行の汽車は箱根のトンネルがこわれてつうじないので、東京湾から船で清水港へわたり、そこから汽車に乗るのです。東北その他へ出る汽車には、みんながおしおしにつめかけて、機関車のぐるりや、箱車の屋根の上へまでぎ・・・ 鈴木三重吉 「大震火災記」
・・・まは姉にお金をねだることも出来ず、故郷との音信も不通となり、貧しい痩せた一人の作家でしかない私は、先日、やっと少しまとまった金が出来て、家内と、家内の母と、妹を連れて伊豆の方へ一泊旅行に出かけました。清水で降りて、三保へ行き、それから修善寺・・・ 太宰治 「老ハイデルベルヒ」
・・・ なんのとがもないのに、わがいのちを断って見せるよりほかには意志表示の仕方を知らぬ怜悧なるがゆえに、慈愛ふかきがゆえに、一掬の清水ほど弱い、これら一むれの青年を、ふびんに思うよ。死ぬるがいいとすすめることは、断じて悪魔のささやきでないと、立・・・ 太宰治 「狂言の神」
・・・ つい近頃友人のうちでケンプェルが日本の事を書いた書物の挿絵を見た中に、京都の清水かどこかの景と称するものがあった。その絵の景色には、普通日本人の頭にある京都というものは少しも出ていなくて、例えばチベットかトルキスタンあたりのどこかにあ・・・ 寺田寅彦 「雑記(1[#「1」はローマ数字、1-13-21])」
・・・そして手水鉢にはいつでも清水がいっぱいに溢れていた。 ボーイはただ一人で間に合っていた。それは三十を少し越したくらいの男であった。いつでもちゃんとした礼装をして、頭髪を綺麗に分けて、顔を剃り立てて、どこの国の一流のレストランのボーイにも・・・ 寺田寅彦 「雑記(2[#「2」はローマ数字、1-13-22])」
出典:青空文庫