・・・これに類した他方面の現象としては清潔なガラス板の水平な面上に薄く清潔な水の層を作っておいて、そうして墨を含ませた筆の先をちょっとそのガラス面の一点に触れると水の薄層はたちまち四方に押しのけられて、墨汁が一見かわき上がったようなガラスの面を不・・・ 寺田寅彦 「自然界の縞模様」
・・・このような「市井の清潔係」としてのうじの功労は古くから知られていた。 戦場で負傷した傷に手当をする余裕がなくて打っちゃらかしておくと化膿してそれにうじが繁殖する。そのうじがきれいに膿をなめ尽くして傷が癒える。そういう場合のあることは昔か・・・ 寺田寅彦 「自由画稿」
・・・街路は清潔に掃除されて、鋪石がしっとりと露に濡れていた。どの商店も小綺麗にさっぱりして、磨いた硝子の飾窓には、様々の珍しい商品が並んでいた。珈琲店の軒には花樹が茂り、町に日蔭のある情趣を添えていた。四つ辻の赤いポストも美しく、煙草屋の店にい・・・ 萩原朔太郎 「猫町」
・・・共に談じ共に笑い、同所に浴こそせざれ同席同食、物を授受するに手より手にするのみか、其手を握るを以て礼とするが如き、男女別なし、無礼の野民と言う可きなれども、扨その内実を窺えば此野民決して野ならず、品行清潔にして堅固なること金石の如くなる者多・・・ 福沢諭吉 「女大学評論」
・・・世人の改新を促して自から謹ましめ以て国の体面を清潔にするは、何は扨置き目下の緊急事なりとて、いよ/\宿論発表の時機到来を認め、昨年八月中より遽に筆を執り、僅々三十日足らずの間に稿を脱したる次第なりと言う。左れば女大学評論及び新女大学の二篇は・・・ 福沢諭吉 「新女大学」
・・・小ざっぱりとした白い壁の小部屋で、ピカピカ清潔な医療道具がガラス箱の内に揃っている。白い上っぱりを着た医者が一人の女の患者を扱っているところだった。「女はどうしても姙娠やお産で歯をわるくするのです。ところが働きながら歯医者へ通うことは時・・・ 宮本百合子 「明るい工場」
・・・ けれども、私たちは、自分の身につける肌着が清潔であるか、ないかという責任を、誰にゆだねているだろう。わたしたち自身が自分の身のしまつはしている。そうだとすれば、どうして自分の一生の価値のため、そのゆたかさと多様な希望の実現をもたらす生・・・ 宮本百合子 「明日の知性」
・・・協力は笑う、協力は最も清潔に憤ることも知っている。協力は愛のひとつの作業だから、結局のところ相手が自分に協力してくれるその心にだけ立って自分の協力も発揮させられてゆくという受身な関係では、決して千変万化の人間らしい協力の花を咲かせることはで・・・ 宮本百合子 「明日をつくる力」
・・・ 私たちは、自分のうちのものは、実によく気をつけて大切に使い、清潔に保ちます。しかし、汽車の中をよごすので有名なのは日本人です。公共建物の洗面所その他を、よくこわし、よくよごしぱなしにすることでも有名です。 これは、わたしたち日・・・ 宮本百合子 「新しい躾」
・・・人が穢いと云うと、己の体は清潔だと云っている。湯をバケツに棄てる。水をその跡に取って手拭を洗う。水を棄てる。手拭を絞って金盥を揩く。又手拭を絞って掛ける。一日に二度ずつこれだけの事をする。湯屋には行かない。その代り戦地でも舎営をしている間は・・・ 森鴎外 「鶏」
出典:青空文庫