・・・ 加うるに椿岳の生涯は江戸の末李より明治の初期に渡って新旧文化の渦動に触れている故、その一代記は最もアイロニカルな時代の文化史的及び社会的側面を語っておる。それ故に椿岳の生涯は普通の画人伝や畸人伝よりはヨリ以上の興味に富んで、過渡期の畸・・・ 内田魯庵 「淡島椿岳」
・・・デカルトの荒唐な仮説は渦動分子説の因をなしているとも見られる。植物学者ブラウンの物好きな研究はいったん世に忘れられたが、近年に到って分子説の有力な証拠として再び花が咲いたのである。実用方面でも幾多の類例がある。ガリレーの空気寒暖計は発明後間・・・ 寺田寅彦 「科学上の骨董趣味と温故知新」
・・・ことに空気を局部的に熱したときに起る対流渦動の実験にはいつもこれを使っていたが、後には線香の煙や、塩酸とアンモニアの蒸気を化合させて作る塩化アンモニアの煙や、また近頃は塩化チタンの蒸気に水蒸気を作用させて出来る水酸化チタンの煙を使ったりして・・・ 寺田寅彦 「喫煙四十年」
・・・河馬と言うものの特徴を見せるために、その前後並びに側面から見た形、眼、耳、鼻、口、尻尾、脚等の形態、水中にもぐって鼻づらだけ出した様子、鼻息で水を吹きとばす有様、水中で動くときに起る水の渦動、こういったようなものを十分に詳しく見せようと思っ・・・ 寺田寅彦 「教育映画について」
・・・これがみな複雑な渦動の団塊であって、六かしい運動を続けながら、だんだんに拡散して行くのである。昨年九月一日被服廠跡で起った火焔の渦巻を支配したと同じ方則がここにも支配しているのだろうと思って、一生懸命に眺めていたが、この模糊とした煙の中から・・・ 寺田寅彦 「雑記(2[#「2」はローマ数字、1-13-22])」
・・・ 煙の柱の外側の膚はコーリフラワー形に細かい凹凸を刻まれていて内部の擾乱渦動の劇烈なことを示している。そうして、従来見た火山の噴煙と比べて著しい特徴と思われたのは噴煙の色がただの黒灰色でなくて、その上にかなり顕著なたとえば煉瓦の色のよう・・・ 寺田寅彦 「小爆発二件」
・・・例えば塵埃に光波が当った時に、光電効果のような作用電子が放散され、それが高層空気の電離を起す事、それが無線電信の伝播に重大な関係を持ち得る事、あるいは塵が空中の渦動によって運搬されるメカニズムやその他色々の問題が残っている。限られた紙数では・・・ 寺田寅彦 「塵埃と光」
・・・これには対流による渦動の問題がある。また半ば満たした金だらいの中央にコップの水を注入する時に水面に菊花状の隆起を生じる事がある。これもまた渦動の一問題であるらしい。また半球形の湯飲み茶わんに突然水を放射すると水は器壁に沿うて走り上り、縁から・・・ 寺田寅彦 「日常身辺の物理的諸問題」
・・・その中に雷雨の生因と、雲および風の渦動との関係が予想されているのがおもしろい。また雷鳴の音響の生因について種々の考えがあげてあるが、この問題については現在でもまだ種々の異説があるくらいである。この方面の研究に没頭せる気象学者にとっては、この・・・ 寺田寅彦 「ルクレチウスと科学」
出典:青空文庫