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・・・彼れの眼の前を透明な水が跡から跡から同じような渦紋を描いては消し描いては消して流れていた。彼れはじっとその戯れを見詰めながら、遠い過去の記憶でも追うように今日の出来事を頭の中で思い浮べていた。凡ての事が他人事のように順序よく手に取るように記・・・
有島武郎
「カインの末裔」
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・・・早暁の町のアスファルトの上を風に吹かれて行く新聞紙や、スプレー川の濁水に流れる渦紋などはその一例である。これらの自然の風物には人間の言葉では説明しきれない、そうして映画によってのみ現わしうるある物があるのである。「銀嶺」のごときは元来実写を・・・
寺田寅彦
「映画時代」