・・・ と、何かさも不平に堪えず、向腹を立てたように言いながら、大出刃の尖で、繊維を掬って、一角のごとく、薄くねっとりと肉を剥がすのが、――遠洋漁業会社と記した、まだ油の新しい、黄色い長提灯の影にひくひくと動く。 その紫がかった黒いのを、・・・ 泉鏡花 「露肆」
・・・デンマークの富は主としてその土地にあるのであります、その牧場とその家畜と、その樅と白樺との森林と、その沿海の漁業とにおいてあるのであります。ことにその誇りとするところはその乳産であります、そのバターとチーズとであります。デンマークは実に牛乳・・・ 内村鑑三 「デンマルク国の話」
・・・ 鮮銀はさらに、カムチャッカ漁場の利権を買ってる漁業会社へ、一ルーブル十八銭――二十銭で売りつけた。 そこで、漁業会社は、普通相場の五分の一にあたる安いルーブル紙幣を借区料としてサヴエート同盟へ納めるのだった。そして、ぬくらんと懐を・・・ 黒島伝治 「国境」
・・・斯ういうように遠くから出掛けて来るということは誠に結構なことで、これが益々盛になれば自然日本の漁夫も遠洋漁業などということになるので、詰り強い奴は遠洋へ出掛けてゆく、弱い奴は地方近くに働いて居るという訳になるのだろう。 縄の他にどを以っ・・・ 幸田露伴 「夜の隅田川」
・・・孕の海にジャンと唱うる稀有のものありけり、たれしの人もいまだその形を見たるものなく、その物は夜半にジャーンと鳴り響きて海上を過ぎ行くなりけり、漁業をして世を渡るどちに、夜半に小舟浮かべて、あるは釣りをたれ、あるいは網を打ちて幸多かる・・・ 寺田寅彦 「怪異考」
・・・ 我邦の産業中で農業に劣らず重要な水産漁業の方面でも物理学的研究の必要はだんだんに増して来るようである。これには先ず海洋それ自身の研究の必要な事は勿論である。海洋に関する物理的事項の重なるものについては近頃出版した拙著『海の物理学』にそ・・・ 寺田寅彦 「物理学の応用について」
・・・それほどでなくとも、少なくも丸善の経営者が書棚の排列を変える時の参考には確かになるだろう。漁業者がたて網の中にはいった魚の回遊する習癖を知っているから、一度はいった魚が再び逃げ出さないような網の形を設計すると同じように。 階段をおりる時・・・ 寺田寅彦 「丸善と三越」
・・・ 五名 一名 ― ― ― 三名 一名農業 一四名 二一名 五名 六名 ― 三名 三名役人 九名 三名 一名 二名 ― 一名 六名漁業 三名 一名 ― ―・・・ 宮本百合子 「一票の教訓」
・・・ 十一月号の『漁村』には、各県の漁業の合理化の方策がのせられていて、婦人に関する項目として、陸上の仕事はなるたけ婦人にさせること、日常生活の合理化を教え、衛生、育児の知識を授けること、女子漁民道場をこしらえて漁村婦女の先駆者たらしめるこ・・・ 宮本百合子 「漁村の婦人の生活」
・・・現に一九三〇年の夏にもイギリスの金でやられていたソヴェト漁業反革命運動の一つがバレた。引きつづいて、この産業党の大陰謀だ。フランスの元首相ポアンカレー、外相ブリアン、英国の労働党外相ヘンダアソン等の嘘の皮が骨までひきはがれた。 全ソヴェ・・・ 宮本百合子 「ソヴェト文壇の現状」
出典:青空文庫