・・・のほうが実は大衆観客のみならず演劇会社幹部の人たちの無意識の主要目的であるのかもしれない。そうだとすると、こうした芝居に見当違いの芸術批評などを試みるのは実に愚なことである。 それで、よく考えてみると、少なくも自分の近ごろの芝居見物は、・・・ 寺田寅彦 「自由画稿」
・・・したがって期待されるものはニュース映画の将来である。演劇的映画などは一日一日に古くなっても、ニュース映画は日に日に新たに、永久に若き生命を保つであろうと思われる。そういう将来における新聞はもはや社会欄なるものの大部分を喪失しているか、さもな・・・ 寺田寅彦 「ニュース映画と新聞記事」
・・・ 行きたくない劇場に誘い出されて、看たくない演劇を看たり、行きたくない別荘に招待せられて、食べたくない料理をたべさせられた挙句、これに対して謝意を陳べて退出するに至っては、苦痛の上の苦痛である。今の世を見るに、世人は飲食物を初めとして学・・・ 永井荷風 「西瓜」
・・・わたくしは演劇及オペラの如き芸術家の肉体と肉声とを必須となす芸術は、必其の作者と人種を同じくする者によって演ぜられる事を望んでいる。カルメンの完全なる演出は仏蘭西人を俟たねばならぬが如く、トリスタンは独逸人でなければならぬであろう。わたくし・・・ 永井荷風 「帝国劇場のオペラ」
・・・二君はこの日午前より劇場に在って演劇の稽古の思いの外早く終ったところから、相携えてこの店に立寄られたのだと云う。店の主人は既にわたくしとは相識の間である。偶然の会合に興を得て店頭の言談には忽花がさいた。主人は喜んで新に買入れた古書錦絵の類を・・・ 永井荷風 「百花園」
・・・当時を顧ると、時世の好みは追々芸者を離れて演劇女優に移りかけていたので、わたくしは芸者の流行を明治年間の遺習と見なして、その生活風俗を描写して置こうと思ったのである。カッフェーの女給はその頃にはなお女ボーイとよばれ鳥料理屋の女中と同等に見ら・・・ 永井荷風 「正宗谷崎両氏の批評に答う」
・・・ かつてわたくしはこの時分の俗曲演劇等の事を論評した時明治十年前後の時代を以て江戸文芸再興の期となしたが、今向島桜花のことを陳るに及んで更にまたその感がある。 明治年間向島の地を愛してここに林泉を経営し邸宅を築造した者は尠くない。思・・・ 永井荷風 「向嶋」
・・・ 僕は啻にカッフェーの給仕女のみならず、今日に在っては新しき演劇団の女優に対しても以前の如くに侮蔑の目を以てのみ看てはいない。今の世の中にはあのようなものが芸術家を以て目せられるのも自然の趨勢であると思ったので、面晤する場合には世辞の一・・・ 永井荷風 「申訳」
・・・ ジャズ舞踊と演劇とを見せる劇場は公園の興行街には常盤座、ロック座、大都劇場の三座である。踊子の大勢出るレヴューをこの土地ではショーとかヴァライエチーとか呼んでいる。西洋の名画にちなんだ姿態を取らせて、モデルの裸体を見せるのはジャズ舞踊・・・ 永井荷風 「裸体談義」
・・・他の factor 即ち consumption of energy の努力は積極的のもので、或種の人達からは国力等の立場より見做して消極的なものと誤解されている、文学、美術、音楽、演劇等はこの方面に属します。これらのものはなくてすむもので・・・ 夏目漱石 「無題」
出典:青空文庫