・・・ 火山弾の方は、はじが少し潰れてはいましたが、半日かかってとにかく一つ見附けました。 見附けたのでしたが、それはつい寄附させられてしまいました。誰に寄附させられたのかっていうんですか。誰にって校長にですよ。どこの学校? ええ、どこの・・・ 宮沢賢治 「茨海小学校」
・・・ チュンセ童子は背中がまがってまるで潰れそうになりながら云いました。「蠍さん。もう私らは今夜は時間に遅れました。きっと王様に叱られます。事によったら流されるかも知れません。けれどもあなたがふだんの所に居なかったらそれこそ大変です。」・・・ 宮沢賢治 「双子の星」
・・・豚はまるで潰れそうになり、それでもようよう畜舎の外まで出たら、そこに大きな木の鉢に湯が入ったのが置いてあった。「さあ、この中にお入りなさい。」助手が又一つパチッとやる。豚はもうやっとのことで、ころげ込むようにしてその高い縁を越えて、鉢の・・・ 宮沢賢治 「フランドン農学校の豚」
・・・右手のほうのせなかにはあんまり泣いて潰れてしまった馬の目玉のような赤い円いかたがついていました。キッコは一寸ばかりの鉛筆を一生けん命にぎってひとりでにかにかわらいながら8の字を横にたくさん書いていたのです。ところがみんなはずいぶんひどく・・・ 宮沢賢治 「みじかい木ぺん」
・・・ それは山鳥が、びっくりして飛びあがるとこへ、山男が両手をちぢめて、鉄砲だまのようにからだを投げつけたものですから、山鳥ははんぶん潰れてしまいました。 山男は顔をまっ赤にし、大きな口をにやにやまげてよろこんで、そのぐったり首を垂れた・・・ 宮沢賢治 「山男の四月」
・・・千、万のぼろ家は、ぐっしゃり一潰れだ。堂宇も宮も、さっさと砕けろ!ミーダ 夢中になって転がり出した者共が、又そろそろ棟のずった家へ家へと這込むな。慾に駆られろ! 命のたきつけをうんと背負いこめ!――面白い! 互の荷物がかち合って、動きの・・・ 宮本百合子 「対話」
・・・そして、そのごたごたの間に母の実家は潰れた形になった。妹である母は、高島田に紫と白のあけぼの染めの絹房の垂れたかんざしをさした頭を下げて、兄の借金の云いわけをしたのであった。 従って謙吉さんのつよく大きい人柄は誇張されて一家のものから評・・・ 宮本百合子 「田端の汽車そのほか」
・・・なかでも弱い女の蒙っている打撃の致命的な深刻さを痛切に理解し、一刻も早い適切な処置を思うなら、戦犯で潰れた反動政党へ、どうして女が入られよう。家庭を奪い、愛する男たちを殺し、傷け、今日の日本をもたらした、その戦犯の仲間に、女である、という唯・・・ 宮本百合子 「人間の道義」
・・・あの時あの女は「潰れますよ」と怒鳴っていた、そういえばひどいことだ、ひどいことといえば治安維持法がなくなってもまだまだ不合理はある、子供が電車の中で潰されて殺されたらその責任は親にあるなんてなんというひどいことだろうと考えます。しかし女なん・・・ 宮本百合子 「婦人の創造力」
・・・それで、とうとう学校が遅れて、着いてみたら、大雪を冠ったおれの教室は、雪崩でぺちゃんこに潰れて、中の生徒はみな死んでいました。もう少し僕が早かったら、僕も一緒でした。」 栖方は後で母にその小鳥の話をすると、そんな鳥なんかどこにもいなかっ・・・ 横光利一 「微笑」
出典:青空文庫