・・・従って、彼の放埓のすべてを、彼の忠義を尽す手段として激賞されるのは、不快であると共に、うしろめたい。 こう考えている内蔵助が、その所謂佯狂苦肉の計を褒められて、苦い顔をしたのに不思議はない。彼は、再度の打撃をうけて僅に残っていた胸間の春・・・ 芥川竜之介 「或日の大石内蔵助」
・・・また紅葉の人生観照や性格描写を凡近浅薄と貶しながらもその文章を古今に匹儔なき名文であると激賞して常に反覆細読していた。最も驚くべきは『新声』とか何々文壇とかいうような青年寄書雑誌をすらわざわざ購読して、中学を卒業したかそこらの無名の青年の文・・・ 内田魯庵 「二葉亭余談」
・・・いよいよ済まぬ事をしたと、朝飯もソコソコに俥を飛ばして紹介者の淡嶋寒月を訪い、近来破天荒の大傑作であると口を極めて激賞して、この恐ろしい作者は如何なる人物かと訊いて、初めて幸田露伴というマダ青年の秀才の初めての試みであると解った。 翁は・・・ 内田魯庵 「露伴の出世咄」
・・・ と、激賞した。また、レオ・シロタは、「ハイフェッツにしても、この年でこの位弾けたかどうか疑問だ」 と無茶苦茶なほめ方だった。 ローゼンシュトックは、「あの子は悪魔の子だ」 と、呟いた。 相手が十三歳の子供だとい・・・ 織田作之助 「道なき道」
・・・そして心中ひそかに不平でならぬのは志村の画必ずしも能く出来ていない時でも校長をはじめ衆人がこれを激賞し、自分の画は確かに上出来であっても、さまで賞めてくれ手のないことである。少年ながらも自分は人気というものを悪んでいた。 或日学校で生徒・・・ 国木田独歩 「画の悲み」
・・・を完結せしむ。ルーソー其言に従う所謂非開化論なり。 而して先生は古今の記事文中、漢文に於ては史記、邦文では「近松」洋文ではヴォルテールの「シヤル・十二世」を激賞して居た。四 先生の文章は其売れ高より言えば決して偉大な・・・ 幸徳秋水 「文士としての兆民先生」
・・・当時作る所の『波』一篇は、白秋氏に激賞され、後選ばれて、アルス社『日本児童詩集』にのりました。父が死んだ年、兄は某中学校に教べんを取りました。父の死は肺病の為でもあったのですが、震災で土佐国から連れてきた祖父を死なし、又祖父を連れてくる際の・・・ 太宰治 「虚構の春」
・・・枯木も山の賑わいというところだったのだが、それが激賞されるほどの善行であったとは全く思いもかけない事であった。私は、みんなを、あざむいているような気がして、浅間しくてたまらなかった。査閲からの帰り路も、誰にも顔を合せられないような肩身のせま・・・ 太宰治 「鉄面皮」
出典:青空文庫