・・・ 自分はそのころから非常な濫読家だったから、一週間の休暇の間に、それらの本を手に任せて読み飛ばした。もちろん樗牛全集の一巻、二巻、四巻などは、読みは読んでもむずかしくって、よく理窟がのみこめなかったのにちがいない。が、三巻や五巻などは、・・・ 芥川竜之介 「樗牛の事」
・・・ そうすると、私もただ乱読したというだけで、樋口や木村と同じように夢の世界の人であったかも知れません。そうです、私ばかりではありません。あの時分は、だれもみんなやたらに乱読したものです。・・・ 国木田独歩 「あの時分」
・・・にならんがために濫読することは無用のことである。識見は博きにこしたことはないが、そのためにしみじみと心して読まぬのでは得るところが少ない。浅き「物識り」を私はとらない。「物識り」と「深き人」とは同一人であることはまれである。 特に実・・・ 倉田百三 「学生と読書」
・・・ この所説を見ても西鶴の態度を科学的と見るという見方はおそらく多くの人に共通な見方であって自分が今ここに事新しく述べるまでもないことかも知れないであろうが、ただ自分が近頃彼の作品を乱読しているうちに特に心付いた若干の点を後日の参考また備・・・ 寺田寅彦 「西鶴と科学」
・・・ かくのごとく我儘であるくせにまた甚だしく臆病な彼は、自分で断然年賀端書を廃して悠然炬燵にあたりながら彼の好む愚書濫読に耽るだけの勇気もないので、表面だけは大人しく人並に毎年この年中行事を遂行して来た。早く手廻しをすればよいのに、元日に・・・ 寺田寅彦 「年賀状」
・・・病室にごろごろしている間は、貸本屋の持って来る小説を乱読するより外に為すことはない。 博文館の『文芸倶楽部』はその年の正月『太陽』と同時に第一号を出したので、わたくしは確にこれをも読んだはずであるが、しかし今日記憶に残っているものは一つ・・・ 永井荷風 「十六、七のころ」
・・・つづけてまた別のを、と、今日の本の読まれかたの多量さのうちには、何ごとかが判ったから先へ進むという摂取の豊饒さではなくて、どうも分らないからまたほかのを読んで見るという心理にうながされた気ぜわしさ、乱読も相当の割合を占めて来ているのである。・・・ 宮本百合子 「今日の作家と読者」
・・・―― 指導してのないために乱読せざるを得なかった十三歳のゴーリキイが、現実と文学との間に在るこの微妙な一点に観察を向け得たという事実は、注目すべきことであると思う。まだ五つ六つだった頃、祖父の家の下宿人「結構さん」とゴーリキイが取交した・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイの伝記」
・・・そして、恐らくは誰でも一度経験するであろう濫読、濫写、模倣の時代がはじまった。 母が読書好きであった関係から、家の古びた大本箱に茶色表紙の国民文庫が何冊もあって、私は一方で少女世界の当選作文を熱心に読みながら、ろくに訳も分らず竹取物語、・・・ 宮本百合子 「行方不明の処女作」
出典:青空文庫