・・・そこここに、低い、片羽のような、病気らしい灌木が伸びようとして伸びずにいる。 二人の女は黙って並んで歩いている。まるきり言語の通ぜぬ外国人同士のようである。いつも女房の方が一足先に立って行く。多分そのせいで、女学生の方が何か言ったり、問・・・ 著:オイレンベルクヘルベルト 訳:森鴎外 「女の決闘」
・・・これは即ち山査子の灌木。俺は灌木の中に居るのだ。さてこそ置去り…… と思うと、慄然として、頭髪が弥竪ったよ。しかし待てよ、畑で射られたのにしては、この灌木の中に居るのが怪しい。してみればこれは傷の痛さに夢中で此処へ這込だに違いないが、そ・・・ 著:ガールシンフセヴォロド・ミハイロヴィチ 訳:二葉亭四迷 「四日間」
・・・と彼は思った。灌木や竹藪の根が生なました赤土から切口を覗かせている例の切通し坂だった。 ――彼がそこへ来かかると、赤土から女の太腿が出ていた。何本も何本もだった。「何だろう」「それは××が南洋から持って帰って、庭へ植えている○○・・・ 梶井基次郎 「雪後」
・・・蓬が雪に蔽われていた。灌木の株に靴が引っかかった。二人は、熱病のように頭がふらふらした。何もかも取りはずして、雪の上に倒れて休みたかった。 山は頂上で、次の山に連っていた。そしてそれから、また次の山が、丁度、珠数のように遠くへ続いていた・・・ 黒島伝治 「渦巻ける烏の群」
・・・触れるとすぐ枝から離れて軍服一面に青い実が附着する泥棒草の草むらや、石崖や、灌木の株がある丘の斜面を兵士は、真直に馳せおりた。 ここには、内地に於けるような、やかましい法律が存在していないことを彼等は喜んだ。責任を問われる心配がない××・・・ 黒島伝治 「パルチザン・ウォルコフ」
・・・丘には処々草叢があり、灌木の群があり、小石を一箇所へ寄せ集めた堆があった。それらは、今、雪に蔽われて、一面に白く見境いがつかなくなっていた。 なんでも兎は、草叢があったあたりからちょか/\走り出して来ては、雪の中へ消え、暫らくすると、ま・・・ 黒島伝治 「雪のシベリア」
・・・そこは灌木の薮の多い谷を隔てて、大尉の住居にも近い。 学士は一番弱い弓をひいたが、熱心でよく当るように成った。的も自分で張ったのを持って来て、掛け替えに行った。「こりゃ驚いた。尺二ですぜ。しっかり御頼申しますぜ」と大尉は新規な的の方・・・ 島崎藤村 「岩石の間」
・・・そこここに、低い、片羽のような、病気らしい灌木が、伸びようとして伸びずにいる。 二人の女は黙って並んで歩いている。まるきり言語の通ぜぬ外国人同士のようである。いつも女房の方が一足先に立って行く。多分そのせいで、女学生の方が、何か言ったり・・・ 太宰治 「女の決闘」
・・・小屋の中の片側には数日分の薪材に付近の灌木林から伐り集めた小枝大枝が小ぎれいに切りそろえ積みそろえられていかにも落ち着いた家庭的な気持ちを感じさせる。 測量部の測夫たちは多年こうした仕事に慣れ切っていて、一方では強力人夫の荒仕事もすると・・・ 寺田寅彦 「小浅間」
・・・野辺地の浜に近い灌木の茂った斜面の上空に鳶が群れ飛んでいた。近年東京ではさっぱり鳶というものを見たことがなかったので異常に珍しくなつかしくも思われた。のみならず鳶のこのように群れているということ自身も珍しい。おそらく下には何かよほど豊富な獲・・・ 寺田寅彦 「札幌まで」
出典:青空文庫