・・・空には火炎のような雲の峰が輝いている。朱を注いだような裸の皮膚には汗が水銀のように光っている。すべてがブランギンの油絵を思い出させる。 耳を聾するような音と、眼を眩するような光の強さはその中にかえって澄み通った静寂を醸成する。ただそ・・・ 寺田寅彦 「田園雑感」
・・・次第に強く揺れ動いては延び上がると思う間にいつかそれが本当の火焔に変っていた。 空が急に真赤になったと思うと、私は大きな熔鉱炉の真唯中に突立っていた。 二 私は桟橋の上に立っていた。向側には途方もない大き・・・ 寺田寅彦 「夢」
・・・それは、作品を批評された作家たちにやけどさせたばかりでなく、筆者自身も自分の噴き出した火焔をあびた。 こんにちになれば、「一連の非プロレタリア的作品」を書いた当時のわたし自身の政治的な幼稚さはよくわかる。同時に、その評論をめぐって、そこ・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第十巻)」
・・・「私はね、 あの火焔太鼓や箏なんかがどうしてもいいと思いますよ、 あの何となし好い色の叩いて見た――あい形をしたのをねえ、 美くしい稚子がその前に座って舞楽を奏した時代がしのばれますよ、 あの時代には御飯なんか喰べずとも・・・ 宮本百合子 「蛋白石」
出典:青空文庫