・・・そうして露台のデッキチェアーに仰向けになって植物図鑑をゆるゆる点検しながら今採って来た品種のアイデンチフィケーションに取りかかる。やっと一つぐらい見つかるころには、朝食の用意ができた、と窓の内から声がかかるのである。 図鑑を見ただけで、・・・ 寺田寅彦 「沓掛より」
・・・いろいろ問答をしてそこに出陳されている切り花を点検した結果、たぶんそれはローヤル・スカーレットと称する品種であるらしいというくらいのところまではやっとこぎつけることができた。 こんな些細な知識を求めるのでも容易なことではない。いやむしろ・・・ 寺田寅彦 「錯覚数題」
・・・ 四 ある食堂の片隅の食卓に女学生が二人陣取ってメニューを点検していた。「何たべる」「何にしよう」……「御飯だの、おかずだの別々にたべるの面倒くさいわ、チキンライスにしましょう」。 ある家庭で歳末に令嬢二・・・ 寺田寅彦 「雑記帳より(1[#「1」はローマ数字、1-13-21])」
・・・命の親のだいじな消化器の中へ侵入しようとするものを一々戸口で点検し、そうして少しでもうさん臭いものは、即座にかぎつけて拒絶するのである。 人間の文化が進むに従ってこの門衛の肝心な役目はどうかすると忘れられがちで、ただ小屋の建築の見てくれ・・・ 寺田寅彦 「試験管」
・・・それからそのまん中に椅子を持ち出して空の星を点検したり、深い沈黙の小半時間を過ごす事もある。 芝の若芽が延びそめると同時に、この密生した葉の林の中から数限りもない小さな生き動くものの世界が産まれる。去年の夏の終わりから秋へかけて、小さな・・・ 寺田寅彦 「芝刈り」
・・・しかし翌日の新聞をことごとく点検する暇などはない。そうして翌日は翌日の仕事が山積しているのである。 このようなただ一日を争う競争はまたジャーナリズムの不正確不真実を助長させるに有効であることもよく知られた事実である。他社を出し抜くために・・・ 寺田寅彦 「ジャーナリズム雑感」
・・・われわれ素人が星座の点検をする機会もまたはなはだ少ない。従って先ず新星が現われて、それからわれわれがそれを発見するという確率は、二つの小さな分数の相乗積であるから、つまりごく小さいもののまだ小さい分数に過ぎない。これに反して毎晩欠かさず空の・・・ 寺田寅彦 「小さな出来事」
・・・しかしその時代に教わった『論語』や『孟子』や、マコーレーの伝記物や、勝手に読んだ色々な外国文学などを想い出して点検してみても、なるほどそれらから受けた影響もかなり多く発見されはするが、どうもこれ程ぴったりはまるものは少ないような気がする。つ・・・ 寺田寅彦 「徒然草の鑑賞」
・・・その間には私はそこらの店先にある商品を点検したり、集まっている人たちの顔やあるいは青空に浮かぶ雲の形態を研究したりする。そうしたためにもしこの僅少な時間を空費したとしても、乗車してからの数十分間にからだを休息させ、こういう時でなければちょっ・・・ 寺田寅彦 「電車の混雑について」
・・・統計を取ってみたわけではないが、試みに枕詞の語彙を点検してみると、それ自身が天然の景物を意味するような言葉が非常に多く、中にはいわゆる季題となるものも決して少なくない。それらが表面上は単なる音韻的な連鎖として用いられ、悪く言えば単なる言葉の・・・ 寺田寅彦 「日本人の自然観」
出典:青空文庫