・・・牛乳びんがいっせいに充填されて行くところだとか、耕作機械の大分列式だとか、これらは子供にもおとなにも、赤にも白にも、無条件におもしろい何物かをもっている。映画のそもそもの始めに見物を喜ばせた怒濤の実写などが無条件におもしろがられたのは、決し・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(1[#「1」はローマ数字、1-13-21])」
・・・脚色者があさはかな人間の知恵をもてあそぶに忙しいだけで、科学的に真実な、万人を無条件に納得させるような何物をも含んでいないからである。 「パリ―ベルリン」 これに反して「パリ―ベルリン」と名づけるナンセンス映画は近ご・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(2[#「2」はローマ数字、1-13-22])」
・・・そしてそれらの考えがほとんど天啓ででもあるように強く明らかに、無条件に真であって、しかもいずれもが新しい卓見ででもあるように彼には思われた。新聞の三面記事を読んでいる時でさえ時々電光のひらめくようにそのような考えが浮かんだりした。そんな時に・・・ 寺田寅彦 「球根」
・・・前者には機械的な記憶などは全然不要であり、後者には方則も何もなく、ただ無条件にのみ込みさえすればよいように思われるかもしれないが、事実はいうまでもなくそう簡単ではない。 数学も実はやはり一種の語学のようなものである、いろいろなベグリッフ・・・ 寺田寅彦 「数学と語学」
・・・これさえ持出せば科学者でない多数の人々を無条件に感心させる事が出来るとでも思っているらしい。それはとにかく、彼が近頃急に懐旧的の傾向を帯びて来たのはどういう訳であろう。人は水に溺れんとする瞬間に過去の生涯全部の幻影を見るそうである。事による・・・ 寺田寅彦 「年賀状」
・・・という合い言葉が往々はなはだしく誤解されて行なわれるためにすべての質的なる研究が encourage される代わりに無批評無条件に discourage せられ、また一方では量的に正しくしかし質的にはあまりに著しい価値のないようなものが過大・・・ 寺田寅彦 「量的と質的と統計的と」
・・・この男はきちんと日課に割り附けてある一日の午後を、どんな美しい女のためにでも、無条件に犠牲に供せようとは思わない。この心持は自分にもはっきり分かっている。そんなら何が今でもこの男に興味を感ぜさせるかと云うと、それは女が自分のためにのぼせてく・・・ 著:プレヴォーマルセル 訳:森鴎外 「田舎」
・・・一九四一年一月からはじまった第二回の執筆禁止は、一九四五年八月十五日、日本の侵略的な天皇制の軍事権力が無条件降伏をするまで、五年の間つづいた。 中断されたこの時期に、評論集としては、『昼夜随筆』『明日への精神』『文学の進路』などが出版さ・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第十一巻)」
・・・そのような劇しい憎しみを持っている男の俤を伝えている定子が、無条件に可愛いということがあるだろうか。まして葉子のような気質の女である場合。―― 母性は非常に本源的なものであるが、それだけに無差別な横溢はしないものであると感じられる。しん・・・ 宮本百合子 「「或る女」についてのノート」
・・・若しかすると、折々記憶の裡に浮み上るその頃の自分が、我ながら無条件に可愛ゆいとは云いかねるような心の容を持っているために、一層気持がこじれるから、兎に角、平常、自分の小学校時代、誠之、というものは、密接な割に意識の底に沈められて来たのである・・・ 宮本百合子 「思い出すかずかず」
出典:青空文庫