・・・いわんや無限無窮の空間と時とに通じて普遍的な方則などというものが如何にして可能であろうか。 これは必ずしもパラドックスではない。 数学の方で収斂級数というものがある。第一項に第二項を加え更に第三第四と無限の項を附け加えると、その総和・・・ 寺田寅彦 「方則について」
・・・我が前に物なしただ無窮あり我は無窮に忍ぶものなり。この門を過ぎんとするものはいっさいの望を捨てよ。という句がどこぞで刻んではないかと思った。余はこの時すでに常態を失っている。 空濠にかけてある石橋を渡って行くと向うに一つ・・・ 夏目漱石 「倫敦塔」
・・・ この官員なり、また学者なり、永遠無窮、人民と交際を絶つの覚悟ならばすなわち可ならんといえども、いやしくも上流の知見を下流に及さんとするには、その入門の路をやすくして、帳合にも日本の縦の文字を用い、法を西洋にして体裁を日本にせんこと、一・・・ 福沢諭吉 「小学教育の事」
・・・遂に西洋人に仮すに我を軽侮するの資を以てして、彼らをして我に対して同等の観をなさしめざるに至りしは、千歳の遺憾、無窮に忘るべからざる所のものなり。 然り而して日本国中その責に任ずる者は誰ぞや、内行を慎まざる軽薄男子あるのみ。この一点より・・・ 福沢諭吉 「日本男子論」
・・・わたくしはあなたに無窮の愛を捧げます。 どうぞもうお手紙も下さいますな。世に忘れられた片蔭に、小さい田舎女は、ただあなたお一人をたよりにして生活していましょう。 ―――――――――――――――――――― ピエ・・・ 著:プレヴォーマルセル 訳:森鴎外 「田舎」
・・・ モラル ↓◎芸術は永遠に満たされぬ者にとってはただ一つの端初にすぎず、その終末は無窮の中にあるのだ。それは一階梯にすぎず殿堂そのものではない。 この事実は、芸術家の大きい魂の真実にふれている、常に自己を超えよ・・・ 宮本百合子 「ツワイク「三人の巨匠」」
・・・ 一瞬の間も止まる事なく、上品に、優美に雲の群は微風に運ばれて、無窮の変化に身をまかせるのである。けれ共、紅の日輪が全く山の影に、姿をかくした時、川面から、夕もやは立ちのぼって、うす紫の色に四辺をとざす間もなく、真黒に浮出す連山のはざま・・・ 宮本百合子 「農村」
出典:青空文庫