・・・ が、諸藩の勤番の田舎侍やお江戸見物の杢十田五作の買妓にはこの江戸情調が欠けていたので、芝居や人情本ではこういう田五作や田舎侍は無粋な執深の嫌われ者となっている。維新の革命で江戸の洗練された文化は田舎侍の跋扈するままに荒され、江戸特有の・・・ 内田魯庵 「淡島椿岳」
・・・だから、辛い勤めも皆親のためという俗句は蝶子に当て嵌らぬ。不粋な客から、芸者になったのはよくよくの訳があってのことやろ、全体お前の父親は……と訊かれると、父親は博奕打ちでとか、欺されて田畑をとられたためだとか、哀れっぽく持ちかけるなど、まさ・・・ 織田作之助 「夫婦善哉」
・・・黄村先生は、そのような不粋な私をお茶に招待して、私のぶざまな一挙手一投足をここぞとばかり嘲笑し、かつは叱咤し、かつは教訓する所存なのかも知れない。油断がならぬ。私は先生のお手紙を拝誦して、すぐさま外出し、近所の或る優雅な友人の宅を訪れた。・・・ 太宰治 「不審庵」
・・・あんなに背の高い人とは思わなかった。あんなに頑丈な骨骼を持った人とは思わなかった。あんなに無粋な肩幅のある人とは思わなかった。あんなに角張った顎の所有者とは思わなかった。君の風ふうぼうはどこからどこまで四角である。頭まで四角に感じられたから・・・ 夏目漱石 「長谷川君と余」
出典:青空文庫