・・・男爵は、いったいに無趣味の男であった。弓は初段をとっていたが、これは趣味と言えるかどうか。じゃんけんさえ、はっきりは知らなかった。石よりも鋏が強いと、間違って覚えている。そんな有様であるから、映画のことなどあまり知らなかった。毎日、毎日、訪・・・ 太宰治 「花燭」
・・・鶴は、ふと、詩を作ってみたいと思った。無趣味な鶴にとって、それは奇怪といってもよいほど、いかにも唐突きわまる衝動であった。たしかに生れてはじめて味う本当にへんな誘惑であった。人間は死期が近づくにつれて、どんなに俗な野暮天でも、奇妙に、詩とい・・・ 太宰治 「犯人」
・・・随分無趣味な装飾ではあるが、住心地の悪くなさそうな一間である。オオビュルナンは窓の下にある気の利いた細工の長椅子に腰を掛けた。 オオビュルナンは少し動悸がするように感じて、我ながら、不思議だと思った。相手の女が同じ人であるだけに、過ぎ去・・・ 著:プレヴォーマルセル 訳:森鴎外 「田舎」
・・・金銭をめぐって煮え立ち、金持は無趣味で仰々しい厚顔の放埒に溺れ、金を持たぬものは、持たぬ金を更に失うことを恐れて、偽善的に「中庸」を守る俗人生活にくくりつけられた。オノレ・ド・バルザックはパリの屋根裏から昂然と太い頸をもたげ、南方フランス人・・・ 宮本百合子 「バルザックに対する評価」
出典:青空文庫