・・・卑劣漢の焼印を、自分で自分の額に押したのでした。お洒落の暗黒時代というよりは、心の暗黒時代が、十年後のいまに至るまで、つづいています。少年も、もう、いまでは鬚の剃り跡の青い大人になって、デカダン小説と人に曲解されている、けれども彼自身は、決・・・ 太宰治 「おしゃれ童子」
・・・としての焼印を、打とうとして手を挙げた。いけない! 私は気づいて、もがき脱れた。危いところであった。打たれて、たまるか。私は、いまは、大事のからだである。真実、そのものを愛し、そのもののために主張してあげたい、その価値を有する弱い尊いものを・・・ 太宰治 「春の盗賊」
・・・一日一日、食って生きてゆくことに追われて、借銭かえすことに追われて、正しいことを横目で見ながら、それに気がついていながら、どんどん押し流されてしまって、いつのまにか、もう、世の中から、ひどい焼印、頂戴してしまっているの。さちよなんか、もっと・・・ 太宰治 「火の鳥」
・・・棕梠緒の貸下駄には都らしく宿の焼印が押してある。 二「この湯は何に利くんだろう」と豆腐屋の圭さんが湯槽のなかで、ざぶざぶやりながら聞く。「何に利くかなあ。分析表を見ると、何にでも利くようだ。――君そんなに、・・・ 夏目漱石 「二百十日」
出典:青空文庫