・・・にしろ、女の肉体の老いと社会的野心或は金銭の慾のくみ合わせが、その本質の陳腐さにかかわらず、作者の興味をひくのだろうかと、人工的な照明の下にあやつられている「絶壁」の男女の姿を眺めたにすぎなかったと思う。ところが、不思議なことに、その作品の・・・ 宮本百合子 「五〇年代の文学とそこにある問題」
・・・ ソヴキノが照明燈をもやして労働宮とそこへ向う群集を撮影している。橋の下では二艘ボートが若い女をのせ、イルミネーションのとけ込んでいる辺だけ小さく漕いでいる。 最近の二年間はすべてを変えた。ソヴェトの生産振興の為の五ヵ年計画は一一〇・・・ 宮本百合子 「子供・子供・子供のモスクワ」
・・・ 内側の並木道と外側の並木道と二かわの古い菩提樹並木が市街をとりまき、鉱夫の帽子についている照明燈みたいな※と円い標を屋根につけた電車が、冬は真白く氷花に覆われた並木道に青いスパークを散らしながら走る。 夕方、五時というと冬のモスク・・・ 宮本百合子 「砂遊場からの同志」
・・・家並の揃った、展望のきく間色の明るい街を、電車は額に照明鏡を立てたドクトルみたいなかっこうで走っている。 年経た、幹の太い楡の木がある。その濃い枝の下に、新聞雑誌の売店、赤い果物汁飲料のガラス瓶。 古いくり形飾を窓枠につけたロシア風・・・ 宮本百合子 「スモーリヌイに翻る赤旗」
・・・……じゃあ舞台監督だの、振りつけ、照明、そんな技術家は? ――舞台監督はなかなかいいよ、第一グループの劇場で六百ルーブリ、第五グループで三百ルーブリ。装置をやる美術家が二百五十ルーブリから五百ルーブリ。振りつけ、大体百ルーブリから二百五・・・ 宮本百合子 「ソヴェトの芝居」
・・・また照明がなくてはならぬし、場所がなければならぬ。ラジオなら中継すれば野の中へでもみんな固まって聴くことが出来、それに今は農村に於ける集団農場が文化の中心になっている。だから集団農場の倶楽部に皆キノだのラジオが集中されて、農村で生産をすると・・・ 宮本百合子 「ソヴェト・ロシアの素顔」
・・・ドイツの新式な電気照明装置が舞台についている。 元の廊下をゆくと、右や左にいくつもの室が並んでいる。真先に目につくのは「レーニン主義共産青年同盟」「地区委員会」「全同盟共産党・ボルシェビキ」とそれぞれ高く入口に札をかかげた部屋部屋だ。そ・・・ 宮本百合子 「ドン・バス炭坑区の「労働宮」」
・・・ツワイクはフーシェに個人的興味をよせすぎ、主観的な照明をあてすぎ、血の気のうすいものを書いた。バルザックが、彼の人間喜劇のところどころに隠見させているフーシェの方が、垣間見の姿ながら時代の生々しい環境のうちにあくどい存在そのままにとらえられ・・・ 宮本百合子 「なぜ、それはそうであったか」
・・・隅に大きい照明燈があっち向に立ってる。「母親の病室は同じですが……われわれは赤坊に深い注意を払っています」 赤坊室で、自分は強い印象をうけた。 ソヴェト同盟の親切な、生活的な科学的考慮が実にこまやかに行われている。性病のある母親・・・ 宮本百合子 「モスクワ日記から」
・・・やがて乳房の山は電光の照明に応じて空間に絢爛な線を引き垂れ、重々しい重量を示しながら崩れた砲塔のように影像を蓄えてのめり出した。 彼は夜になると家を出た。掃溜のような窪んだ表の街も夜になると祭りのように輝いた。その低い屋根の下には露店が・・・ 横光利一 「街の底」
出典:青空文庫