・・・之を喩えば人を密室に幽囚し、火を撮ませ熱湯を呑ませて、苦し熱しと一声すれば、則ち之を叱して忍耐に乏しき敗徳なりと言うに異ならず。知るや知らずや、其不平は人を謗るにも非ず、物妬むにも非ず、唯是れ婦人自身の権利を護らんとするの一心のみ。其心中の・・・ 福沢諭吉 「女大学評論」
・・・こんな訳だから、ほんとうに豚を可哀そうと思うなら、そうっと怒らせないように、うまいものをたべさせて置いて、にわかに熱湯にでもたたき込んでしまうがいい、豚は大悦びだ、くるっと毛まで剥けてしまう。われわれの組合では、この方法によって、沢山の豚を・・・ 宮沢賢治 「ビジテリアン大祭」
・・・ 水色やかんを下げてYが、ヒョイヒョイとぶような足つきで駅の熱湯供給所へ行く後姿を、自分は列車のデッキから見送っている。あたりはすっかり雪だ。СССРでは昔からどんな田舎の駅でも列車の着く時間には熱湯を仕度してそれを無料で旅人に支給する・・・ 宮本百合子 「新しきシベリアを横切る」
・・・ 一やかんもの熱湯を髪の癖なおしにつかって、一時間位鏡の前に座って居た彼の女をよく云うものはない。 頭の地にすっかりオレーフル油を指ですりつけて、脱脂綿で、母がしずかに拭くと、細い毛について、黄色の松やにの様なものがいくらでも出て来・・・ 宮本百合子 「一日」
・・・ ニッケル大湯沸のクランクからバケツへ熱湯を注ぎながら皿洗女は云った。 ――臨時でもなんでも、こうして働ければ結構ですさ。働いていりゃ並木通りあるきをしないですむから……ねえ。 そのほか、 並木通りにはティモフェー・ティモフ・・・ 宮本百合子 「子供・子供・子供のモスクワ」
・・・病院では朝晩熱湯をくれる。〔欄外に〕 ロシア人と茶。午後三時茶がわく。シュウイツァールの男がクルシュクールもってそっと歩いて行く。エイチャイピーラの唄=事務所の茶=クベルパルトコンフェレンスのトリビューンにもさじのついた茶のコッ・・・ 宮本百合子 「一九二九年一月――二月」
・・・根を熱湯につけてさすと一日一日、新しい花がさくと云ったが咲かず、二日目に、葉ばかりになった。 柳やの女中 薄馬鹿で色情狂、 甚兵衛の家に肴をとどけて来て、かえりになかなか柳やへ戻らず。女房丁度雨がふり出したので傘・・・ 宮本百合子 「一九二五年より一九二七年一月まで」
・・・瓦斯が自由に使え、いつでも蛇口を廻せば熱湯が出る台処は、働くに着物を汚す場所でもなければ、心持の悪い処でもありません。一時間も準備にかかれば気持よい夕餐が出来ます。 それを、談笑のうちにしまい、後の洗物や何かは良人も手伝って、七時半頃ま・・・ 宮本百合子 「男女交際より家庭生活へ」
・・・祖父は彼を靴屋の小僧にやった。熱湯でやけどをしたゴーリキイが二ヵ月で暇を出されて来ると、次は製図工へ見習にやられた。そこで一年辛棒した。生活はあまり辛い。逃げ出して、ヴォルガ河通いの船へ皿洗いとして乗組んだ。 月二ルーブリで、朝六時から・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイの人及び芸術」
出典:青空文庫