・・・スペインのこんにちの燃え立つ階級間の争闘を、柳沢健氏が、その民族の持っている一本気で純朴で誠実な徳性によって、惨虐性にまで進められてあるのだと説明していることだけにあきたりないと同じように。思想的・文学的な内容において情熱という言葉が日本に・・・ 宮本百合子 「十月の文芸時評」
・・・或人はイブセンの如く燃え立つ自己の正義感と理想とに写る人間の愚悪に忍びず詰問から、書く人がある。或者は、ゲーテの如く思索の横溢から或は又、外界と調和し得ぬ孤独な魂の 唯一の表現として人類は、多くの芸術・・・ 宮本百合子 「初夏(一九二二年)」
・・・ 恋愛において個性が燃え立つのは、恋愛があらゆる場合、その個性の属する社会層の思想、習慣等の集約的表現だからである。様々の階級的感情、社会の一般的情勢に制約されつつ、或る者は恋愛をモメントとして自己の階級から脱離し、或る者は一層かたくそ・・・ 宮本百合子 「ツルゲーネフの生きかた」
・・・然し私の好みを云うなら、自分は大浦の、女らしさの限りをつくしてレースや花にとりまかれた御母マリア、赤や紫の光線に射られ、小さい暗い宝石の結晶のように柱列、迫持の燃え立つ御堂の陰翳を愛する。 市内に戻り、出島町を歩く。梅蘭芳の芝居で聞いた・・・ 宮本百合子 「長崎の一瞥」
・・・青白いような顔半分がこっちに見えるのだけれど、そのほかのところは朦朧として、胸のところにかーっと燃え立つような色のもり上ったものがたぐまっている。五つの娘の瞳にそれはいくらかゴリラの立ち上ったみたいに映るのであった。その絵ばかりはどう見ても・・・ 宮本百合子 「本棚」
出典:青空文庫