・・・今でもつづけて行われているかどうか知らないけれども、それはやっぱり女の仕事として爽快なものとは云われない感じがあった。ダットサンぐらいは女でも自由に動かして然るべきものという心持の上に立てられた企画ではなくて、ダットサンに手が出したい階級の・・・ 宮本百合子 「この初冬」
・・・は、今日にあっても私たちを爽快にさせる明治の強壮な常識に貫かれている。 若い女性たちが数百の小説本はよみながら、一冊の生理書を読んだこともないひとの多いことをなげき「学問の教育に至りては女子も男子と相異あることなし」ということを原則とし・・・ 宮本百合子 「女性の歴史の七十四年」
・・・ヴィンダー少し運動したので爽快だ。このいい心持で一寝いりするかな。カラ 私も何だか若返ったような気持です。行って、昼月の鏡で、髪の縺れ工合でもなおそうかしら。ミーダ 思いがけない機会で、隠密な日頃からの俺の唆かしの結果が見ら・・・ 宮本百合子 「対話」
五月は爽快な男児。ぴちぴち若い体じゅうの皮膚を裸で、旗のような髪の毛を風にふき靡かせつつ、緑の小枝を振り廻し駈けて行く五月。新鮮に充実して浄き官能の輝く五月。 近い五月は横丁の細道にもある。家の塀について右へ一つ、もう・・・ 宮本百合子 「わが五月」
・・・高くげた旗を望んで駈歩をするのは、さぞ爽快だろうと思って見る。木村は病気というものをしたことがないが、小男で痩せているので、徴兵に取られなかった。それで戦争に行ったことはない。しかし人の話に、壮烈な進撃とは云っても、実は土嚢を翳して匍匐して・・・ 森鴎外 「あそび」
・・・エロチックの方面の生活のまるで瞑っている秀麿が、平和ではあっても陰気なこの家で、心から爽快を覚えるのは、この小さい小間使を見る時ばかりだと云っても好い位である。「綾小路さんがいらっしゃいました」と、雪は籠の中の小鳥が人を見るように、くり・・・ 森鴎外 「かのように」
・・・児髷の子供も、何か分からないなりに、その爽快な音吐に耳を傾けるのである。 胡麻塩頭を五分刈にして、金縁の目金を掛けている理科の教授石栗博士が重くろしい語調で喙を容れた。「一体君は本当の江戸子かい。」「知れた事さ。江戸子のちゃきち・・・ 森鴎外 「里芋の芽と不動の目」
出典:青空文庫