・・・ それが、所謂片恋の悲しみなんだそうだ。そうしてその揚句に例でも挙げる気だったんだろう。お徳のやつめ、妙なのろけを始めたんだ。君に聞いて貰おうと思うのはそののろけ話さ。どうせのろけだから、面白い事はない。 あれは不思議だね。夢の話と・・・ 芥川竜之介 「片恋」
・・・ 失恋の場合 こちらで思う人が自分を思ってくれない場合、いわゆる片恋の場合にもいろいろある。胸の思いはいや増してもどうしてもうまくいかないことがある。原則としては恋愛というものは先方に気がなければ引き退るべきはず・・・ 倉田百三 「学生と生活」
・・・恋は、必ず片恋のままで、かくして置け。女に恋を打ち明けるなど、男子の恥だ。思えば、思われる。それを信じて、のんきにして居れ。万事、あせってはならぬ。漱石は、四十から小説を書いた。 愚かな私の精一ぱいの忠告は、以上のような、甚だ高尚でない・・・ 太宰治 「困惑の弁」
・・・それは、片恋というものであって、そうして、片恋というものこそ常に恋の最高の姿である。 庭訓。恋愛に限らず、人生すべてチャンスに乗ずるのは、げびた事である。 太宰治 「チャンス」
・・・ 恋をはじめると、とても音楽が身にしみて来ますね。あれがコイのヤマイの一ばんたしかな兆候だと思います。 片恋なんです。でも私は、その女のひとを好きで好きで仕方が無いんです。そのひとは、この海岸の部落にたった一軒しかない小さい旅館の、・・・ 太宰治 「トカトントン」
出典:青空文庫